『[リミット]』 リバタリアンの映画評 #13

政府は市民を守れるか

内戦が続く中東イエメンを取材するため現地に渡航しようとしたフリージャーナリストの常岡浩介さんが外務省から旅券返納命令を受け、出国を禁じられました。外務省側は「邦人保護」を理由に制限に出たとみられています。

市民の保護は政府の重要な役割だとされます。けれども私たちは身の安全を政府に任せて、本当に大丈夫なのでしょうか。『[リミット]』 (ロドリゴ・コルテス監督)はそのような問いを突き付けます。

イラクで民間トラック運転手として働く米国人ポール(ライアン・レイノルズ)が目を覚ますと、そこは暗いひつぎの中。何者かに襲われ、地中のどこかに埋められてしまったのです。ひつぎにあった携帯電話に犯人が連絡をよこし、助けてほしければ身代金を米政府に払わせろと要求。ポールは窒息死の恐怖と戦いながら、必死で政府や勤務先の会社に助けを求めますが、救出は一向にはかどらず、時間だけが無情に過ぎていきます。

政府のいくつかの機関や部署をたらい回しされ、ポールはお役所仕事にいら立ちます。国務省でようやくダンというテロ人質対策の責任者に回されますが、ダンは犯人の脅迫でやむなく自分の動画をアップしたポールを責めるなど、政治問題を避けることを優先。口先ではポールを励ますものの、肝心の救助は進みません。

結末は意外性があり、しかも強烈な皮肉が利いています。政府は政治的な都合で市民を言葉巧みに欺く一方で、情けないほど無能である――。その両面の真実がラストの一言で鮮やかに浮かび上がります。

政府は、顧客の利益を第一に考える民間企業とは違い、政治的利害によって動く組織です。そのうえ、劣悪なサービスでも国民という顧客に逃げられたり税金の返金を迫られたりする心配はありません。そのような組織に身の安全を委ねる危うさを、この映画から気づかされます。
(Netflix)


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