『日日是好日』 リバタリアンの映画評 #3

かけがえのない時間

時間のとらえ方には二種類あるといわれます。直線の時間と円環の時間です。西洋ではキリスト教の影響から、時間が世界の始まりから終わりまで一直線に進むと考えるのに対し、日本では一日や四季が繰り返すように、時間は円を描くように繰り返すと考えられてきたといいます。けれども時間は繰り返すと考える文化の下にあろうと、一人一人の人生にとって、時間はかけがえのないものです。

『日日是好日(にちにちこれこうじつ)』(大森立嗣監督)の主人公、典子(黒木華)は二十歳の春、母に勧められてお茶を習うことになります。興味のなかったお茶の魅力に気づき、惹かれていく典子。それからの人生でさまざまな悲しみに出会ったとき、お茶が心の支えとなります。何か大切なものを失った日であろうと、ありのまま受け止め、ひたすら生きれば、どんな日もかけがえのない絶好の一日——。稽古場に掲げられた「日日是好日」という言葉を、年齢を重ねた典子は噛みしめます。

映画ではお茶の道具がいろいろと登場しますが、印象深いのは、初釜で使われる、その年の干支にちなんだ茶碗です。十二年に一度しか使われません。習い始めの頃それを聞いた典子は、戌(いぬ)の絵のついた茶碗を手にしながら驚きます。それから十二年後、典子は昔と同じ戌の茶碗を見つめます。十二年周期のサイクルを永遠に繰り返す時間に比べ、限りある人の一生。だからこそ大切に味わう価値があります。

季節は毎年同じように巡ってきても、去年の人はもうそこにいないかもしれません。典子が父を亡くしたとき、お茶の先生が一緒に縁側に座り、散る桜を見つめながら言葉少なに慰めます。このシーンをはじめ、見事な演技を見せる先生役の樹木希林さんも先日、惜しくも世を去りました。その所作、表情は、人生という時間を大切に生きなさいと語りかけるようです。

(東京・シネスイッチ銀座)


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