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サカナクションに見るオンラインでの価値の作り込み

オンラインでのライブイベントが当たり前になって、その内容も徐々に洗練されてきました。特に、日頃から実験的なアプローチを好むサカナクションが、満を持して開催したライブ『SAKANAQUARIUM 光 ONLINE』は、音響効果も、映像効果もオンラインらしいものであって、これからのイベントの在り方を示唆する新しいものだったと思うのです。

 サカナクションがオンラインライブ『SAKANAQUARIUM 光 ONLINE』を行なった。チケットの売り上げ枚数で言えば、おそらく、これまでに開催されたサザンオールスターズ(6月25日、18万枚)、星野源(7月12日、10万枚)に次ぐ規模だろう。しかし、ここで着目すべきは、オンラインでの価値の作り込みの深さにある。

 サザンは無観客の横浜アリーナから配信を行なった。客席にライトを配置するなど、一部に無観客な状況を有効活用したけれど、原則は通常のライブ映像に近い演出だった。また星野源は渋谷クラブクアトロにて、フロアに設置した特設ステージから、バンドメンバーが円陣を組んで向かい合うというライブらしからぬフォーメーションで配信を行なった。内容はどちらかと言うとアコースティックに、10万人の観客一人ひとりに届けるという意味では、オンラインらしい演出だったのかもしれない。

 一方、今回のサカナクションは、まずイヤホンやヘッドホンでの視聴が推奨された。これはKLANG:technologies社が手がける3Dサウンドの効果を、より良く享受するためだ。音の鳴る場所が、バーチャル空間の中で細かくコントロールされる。通常のライブでも音響効果にこだわるサカナクションにとっては、当然の取り組みなのかもしれないけれど、人それぞれの環境で、特にPCやスマートフォンで鑑賞されがちなオンラインライブにおいて、レコーディング作品とはまた違った体験価値の作り込みが感じられる。

 ステージは通常のオフラインに近い広さとフォーメーション。しかし、途中の「陽炎」ではスナックの店内へとセットチェンジが行われた。これもオンラインならではだろう。これだけの大規模なセットをずっとステージ上に組んでおくことは難しく、メンバーが柔軟に移動できるという配信のメリットが活かされている。

 そして、目玉は「ミュージック」で訪れる。持ち場を離れてステージ前方に並ぶメンバーに、Rhizomatiksによる映像効果が重ねられる。輪郭をぼかし、ミュージックビデオでも見たような紙吹雪を飛ばし、まるでVJプレイのようにリアルタイムに反応する演出は圧巻だ。これらはPerfumeのライブ演出などではお馴染みのものだったけれど、今回、オンライン配信との親和性が改めて認められた。

 このコロナ禍において、いち早くオンラインの可能性を探ってきたRhizomatiksは、これからのイベントの在り方を「リアル主導型」、「オンライン主導型」、「同時並行型」の3つに分類している。トークイベントや社内イベントがオンライン主導で効果を発揮する一方、やはり音楽ライブはリアルが主導せざるを得ない。例えばブルーノート東京のように同時並行を模索するクラブはあるものの、やはりオンラインはオフラインの廉価版に成り下がっている現実がある。

 それはそれで良いのかもしれない。棲み分けは重要だ。しかし『SAKANAQUARIUM 光 ONLINE』は、オンラインの方が愉しめる要素もあるのかもしれないと、気付かされるものだった。音響効果だったり、映像効果だったり、インタラクティブだったり、オンラインに最適化できる側面があるのだとすると、例えばツアーの1日はオフラインで、他の1日はオンラインで、という同時並行型のアプローチが生まれてくるのかもしれない。

 新型コロナウイルスが少しは落ち着いたとしても、大規模なイベントは当面、自粛が続くだろう。その中で、一つの可能性を感じさせてくれる見事なオンラインライブが開催されたのだった。

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