断れない、誘い文句。
午後十時。
「寝る時間」「まだ遊ぶ」
いつもの言い争い。
と、「パパがいいって言ったらいいよ」
まさかの展開。憎まれ役になる覚悟で待つ。
息子がきて「一緒に遊びたい」と殊勝な声。
駄目……と言いかけ言葉を飲んだ。
将棋盤を抱えてる。なにそれ?
「将棋やりたい。五歳になるから」
常々、誘っていた。
かの藤井聡太竜王は五歳で将棋を始めた。
じゃあ、うちは四歳から。
勝手な都合はもちろん拒否。
周り将棋を一度やったきり埃を被った。
それが……なんというタイミングで言うんだ、この子は!
翻意しママを説得。
――彼は今、人生の転機を迎えている。
「いいよ、私は明日の準備してる」
OKした。――よしっ、やろう。
駒の並べ方から教えていく。
真剣に聞く姿勢に、私も熱が入った。
と、大根を剥くママがこっちを見て微笑んでる。
もしや最初からそのつもりで?
たっぷり三十分。
初の将棋は、大根が煮終わるまで続けられた。
大根を煮る間ぱちぱち駒のおと
(だいこんをにるまぱちぱちこまのおと)
季語(三冬): 大根、だいこ、おおね、大根畑、沢庵大根、青首大根、三浦大根、聖護院大根……
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