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人妻を刺す

もう会わないと思っていた。
今年は住む場所を変えたのではと。
なのに……

酷暑和らぐ一日となった夕方。
妻と懸念だった庭の草むしりをした。
抜き終えた草を袋に入れようとして気付く。
妻の腕に……あっ
言うが早いか私の手が反応。ペシ! 命中。
潰れ落ちる残骸。血は吸われてない様子。

ヒーロー気取りで妻を見やると、果たして間男を庇うような顔で言った。
「駄目なんだよ、途中で殺しちゃ」 
耳を疑う。……なんで?
「なんか……今の時代は」
理不尽に傷ついて草むしりを終えた。

リビングでくつろいでいると、スマホで調べた妻が解説にきた。
曰く――

蚊は血を吸う時に自分の唾液を人の体内に入れる。それが痒みの原因。吸ってる途中に殺すとそれが体内に残ったままになる。むしろ最後まで吸わせ唾液と一緒に持ち帰ってもらった方が痒みは減る。

話しつつ「痒いっ」と妻が肘をポリポリ。
既に赤く膨らんでいる。
――ごめんね。
非を認め……あれ? でもそこ? 刺されたの?
「肘も刺されてたみたい。二か所!」
と、さっきの腕もポリポリする。

――どっちの方が痒い?
「どっちも。でも強いて言えば肘!」
――え?
「……え?」


殺してはいけない理由藪蚊打つ

(ころしてはいけないりゆうやぶかうつ)

季語(三夏): 蚊、藪蚊、赤家蚊、縞蚊、蚊柱、蚊を打つ、蚊を焼く


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