やさしい嘘と、気遣いの無言
やさしい嘘は笑いになる。
五歳息子がパパにつくあけすけな嘘。
ママと二人で外出して、大好物の回転寿司を食べて帰ってくる。
開口一番「パパ、お昼何食べた?」
私の答えを聞くうちからニヤニヤが止まらない。
「……僕も一緒。おうどん」と答えるその嬉々とした目。
――嘘だ。本当は何が美味しかったの?
「ぶり」
何度このくだりを繰り返したか。
「今度はパパも一緒に行こうね」と言って会話を締める。
それが今日は……
ママと二人でじじばばの家に遊びに行っていた。
帰った息子からいつもの問いかけがない。
――美味しいもの食べてきた?
こっちから声を掛けると「うん……」と顔をそらし行ってしまった。
あれれ?
妻から事前に聞いていた。
とんかつを御馳走になったこと。
美味しくて一人前を平らげたこと。
「パパも一番好きなのは、とんかつ」とじじばばに教えてあげてたこと。
うしろめたさを感じてるのだろうか。
――「ぶり」かなあ? と、おどけてみたが振り返ってくれない。
行く春や吾子の背に気遣いの黙
(ゆくはるやあこのせにきづかいのもだ)
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