夜空をいざようクジラ
庭に出て、十六夜を仰ぐ。
澄み切った空にあって凛々しい。
四歳息子を誘うも、届いたばかりの「こどもちゃれんじ」の付録、ぜんまい仕掛けのロボット作りに夢中で、すぐ部屋に入ってしまった。
どこからか雲が現れて、次から次へと月を横切っていく。
逃げる鰯の群のように流れが速い。
なるほど、最後に控えるは大きなクジラ雲。
口を大きく開けるや一気に月までも飲み込んでしまった。
気がつけば私もその胎内にいた。
辺りはまっ暗。「おーい」と呼べど返事はない。
「おーい!」
立ち上がってもう一度叫んだ時、そこに亡き父がいた。
「大切にしろよ」
私にネジのようなものを手渡し、行こうとする。
「待って、お父さん」
追いかけるも足が痺れてままならない。待ってよ。
――パパっ!
声に振り返ると、息子が立っていた。……え?
「パパ、これ巻くのは?」
「……ああ、さっき落としたんだよ」
私は手に持っていたものを手渡した。
十六夜や雲のクジラの胎内へ
(いざよいやくものくじらのたいないへ)
季語(仲秋): 十六夜(いざよい、じゅうろくや)
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※みんな大好き物語メーカー、小牧幸助さんの「 #1分マガジン 」に参加しています。
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