マガジンのカバー画像

子供が産まれたと同時に難病になった喜劇作家の入院日記

28
2017年に指定難病「皮膚筋炎」翌年「間質性肺炎」と連続して発病し3年間入退院を繰り返してきました。気持ちの整理がついた今、入院中にしたためていた日記を再構成して文章にしていこう…
運営しているクリエイター

2019年11月の記事一覧

「メンタル」~子供が産まれたと同時に難病になった喜劇作家の入院日記12

ふざけんな! この野郎! 畜生っ!  怒りボルテージがMAX。なんでこんなに怒っているのか? 自分が自分でないようだ。でも積もり積もって抑えられないこの感情。 昨日のエンドキサンパルスの後遺症か? 皮膚筋炎による、指のささくれが痛むからか? 朝、隣の親父から「目覚めっ屁」をかまされたからか? 同室のジジイがさっきからずっとケータイで喋ってるからか? ジジイは夕べも、イヤホンせず音ダダ洩れでテレビを見てたよね? 看護学生が採血したけど量が足りなくて、やり直しになったからか?

「退院」~子供が産まれたと同時に難病になった喜劇作家の入院日記13

某月某日 退院前日の朝。ここ一週間ほど考えていたことを実行に移す。 ――病院脱走計画。 3ヵ月弱に及ぶ入院生活。自分でいうのもなんだけど優等生な患者であった。消灯時間(夜9時!)の10分前には自ら電気を消し、起床時間(朝6時)の30分前には起きて、その日飲む薬を自ら準備する。 コレステロール値が高いと言われれば、飲むもの全てお茶か水にし、自主的な歩行訓練を勧められたら、朝昼晩と病院内を歩いた。 そんな優等生が起こす卒業間近の小さな校則違反。病院内の窓ガラスを叩き割っ

難病になった喜劇作家の"再"入院日記1「再燃」

某月某日 皮膚筋炎が再燃した。 診断を聞いた瞬間、足元の床が抜けすーっと真っ暗な奈落に落ちていく。 正直、直近2カ月ずっと調子が悪かった。嫌な咳き込み。体が重い。続く微熱。鎮痛剤が手放せない。 一回目の、あのときのあの感じと似てる…… 不安は常に脳裏をよぎっていたが「再燃」とは結びつけたくなかった。 月一の血液検査ではまだ炎症反応は出ていなかったし、徐々にプレドニン(ステロイド)量も減って(8mg)、寛解に進んでいると信じていた。 仕事においても。 前回の退院からリハ

「間質性肺炎」~難病になった喜劇作家の"再"入院日記2

某月某日 誕生日を迎えた。 人生の中でも稀にみる最低気分のアンハッピーバースデー。 だだっ広い個室でベッドから動けず一人、時間をつぶす。 自分の生きざまの裏返しだけど、誕生祝のメールをもらえるような友達はおらず。入院のことも家族以外誰にも知らせていないのでお見舞いもない。 誕生日プレゼントは医師から。骨密度の検査結果。 ステロイドを飲み続けている割には、骨はとても丈夫な状態だそう。健康体の同年齢の人と比べて90%くらいだって。おめでとう。 ということで、ステロイド量を

「悲しき決断」~難病になった喜劇作家の"再"入院日記3

某月某日 咳が止まらず、リン酸コデインという薬を追加で処方される。麻薬らしい。朝昼晩と毎回、看護師が別に持ってくるという管理ぶりで、ちょっと怖い。そういう劇薬に頼ってるのか、今の私は。 確かに間質性肺炎は死に直結する病気だ。ネットで調べたら、診断後からの余命が3~5年とあった。怖い。かなり怖い。 * サチュレーション(SpO2)という血中の酸素飽和度を測る機器を指につけている。健常な人では96%以上の数値を示すが、私は90%をきることがザラで、常時、酸素吸入の管を

「死にかける」~難病になった喜劇作家の"再"入院日記4

某月某日 深夜2時を回ったところ。どこかの患者と看護師のやりとりが聞こえ目が覚める。 「日馬富士(はるまふじ)を待たせてるんだよっ」 どうやら患者は看護師を奥さんだと思い込み暴言を吐いている模様。意識障害。せん妄というらしい。なぜ相撲部屋にいるのか、気の毒に思いながらも入院中は誰しもなりうる可能性が高いと知って、他人事じゃないなと感じ入る。 私は今、HCU(高度治療室)にいる。ICU(集中治療室)よりはやや軽いが一般病棟にはいられない患者が入る場所。日中からずっと眠っ

【R15指定】「まるだし」~難病になった喜劇作家の"再"入院日記5

某月某日 朝食を食べ終わってまったりしていると、看護師が来て「オシモアライを」と言われた。 絶対安静を通告され、尿瓶で用を足すようになってから覚悟はしていた。していたけれども、いざとなると緊張する。抵抗を感じる。申し訳ない。ぶっちゃけ恥ずかしい。もし反応しちゃったら……。自意識過剰が働きだす。 こっちは患者。向こうも仕事だ。お互い乙女じゃあるまいし。恥ずかしがったって仕方がない。よおし受けて立つ! と、パジャマのズボンをずらしパンツを脱ぐ。堂々と丸出しで寝そべってその時

「血を入れ替えたら、カレー好きになった話」 ~難病になった喜劇作家の"再"入院日記6

某月某日 血漿(けっしょう)交換治療3回目のこと。 突然、体じゅうがポッと熱くなった。感覚的に言うと、情熱的な男の血が入り込んできた! って感じ。同じ血液型Aでも、自分とは正反対の性格。積極的で、社交的で、どんな困難にも不撓不屈の男。そして無類のカレー好き。 ちなみに私は、カレーが大のつくほど苦手。中学のとき、お店で食べたカレーの辛さに驚いてじんましんが出て以来、食べるのがおっくうになった。家の甘口カレーも駄目になり、やがて匂いにも嫌悪感が湧くようになったので、その後の