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人生における「物語」の大切さ 僧侶が読み解く映画「グッバイ・レーニン!」

映画「グッバイ・レーニン !」
ヴォルフガング・ベッカー監督 2003年ドイツ作品

 
 舞台は1989年の東ドイツ・東ベルリン。クリスティーネは夫が愛人とともに西ドイツへ亡命したことの反動から、熱烈な東ドイツ国家体制の支持者となっていました。

 しかし息子のアレックスが反体制デモに参加しているのを目撃し、ショックで心臓発作を起こして昏睡状態に陥ります。

 その後社会は激変。ベルリンの壁が崩壊し、西側資本が東ベルリンに流れ込み、人びとの風俗もたちまち変わります。そんな中でクリスティーネは奇跡的に目を覚ますのですが、「決してショックを与えてはいけない。命にかかわる」との医者の忠告を受け、アレックスは母の周囲にかつての東ドイツの環境を作り上げるのでした。何も変わっていないよと。

 テレビが観たいという母の希望を受け、アレックスは架空のニュース番組のビデオを制作し、本放送と偽って母に観せ続けます。そこから、アレックスの仕事は、過去の再現に留まらず、あるべきだった現在、さらにはあってほしい未来の創造へと移行していくのです。

 それは母にとっても、アレックス自身にとっても、今を生きていくための「物語」の再構築作業でした。
 
 誰もが自分だけの物語を持っています。物語の中で人は自分の居場所を見つけ、物語に促されて人は明日に向かいます。

 しかし時に、物語が思いがけず崩れてしまうこともあります。そこから不安や虚無感に陥りもします。

 そんな時、慌てて代替品に手を伸ばすのではなく、崩れた物語を大切に抱きながら、立ち現れていく新たな物語を生きていける。そんな私に、仏教はお育てくださるといただいています。
 
松本 智量(まつもと ちりょう)
1960年、東京生まれ。龍谷大学文学部卒業。浄土真宗本願寺派延立寺住職、本願寺派布教使。東京仏教学院講師。
自死・自殺に向き合う僧侶の会事務局長。認定NPO法人アーユス仏教国際協力ネットワーク理事長。


※本記事は『築地本願寺新報』掲載の記事を転載したものです。本誌やバックナンバーをご覧になりたい方はこちらからどうぞ。

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