人生の「息苦しさ」は、どこからくる? 僧侶が読み解く映画『放送禁止歌』
「仏教と関わりがある映画」や「深読みすれば仏教的な映画」などを〝仏教シネマ〟と称して取り上げていくコラムです。気軽にお読みください。
映画「放送禁止歌」~歌っているのは誰?規制するのは誰? ~ 1999年フジテレビ制作
現在は作家及び映画監督として活躍している森達也氏は、かつてはテレビディレクターとして数々の問題作を世に送っていました。
昨年12月、それらの中から4作品が初めてDVD化されました。『Tatsuya Mori TV Works ~森達也テレビドキュメンタリー集』。収録された4作品はどれも秀作ですがイチ押しはやはりこれ。放送界を変える一石となった歴史的作品です。
かつて放送界には「放送禁止歌」がありました。公序良俗に反する、あるいは差別を助長するという理由で、放送をすることができないと判断された歌です。具体的には、反体制思想や暴力、障害者や被差別部落を扱ったものです。
その判断は誰がどこで行っているのかを取材していく中で、「放送禁止歌」を放送すること以前に、差別をテーマに語ることさえタブーとする空気が放送局内にあることが分かります。実は「禁止」は誰もしていなかったのでした。あるかもしれないクレームを事前に回避したいという「自主規制」に過ぎなかったのです。
それにより、差別解消をテーマとし、被差別当事者もぜひ広めてほしいと願った歌さえ、「差別関連」に分類され放送リストから外されていたのでした。
本作品が放送されて以降、『ヨイトマケの唄』や『イムジン河』が普通に放送されるようになりました。しかし、本質の部分は今も変わりません。息苦しさを感じた時、自分を息苦しくしているのは誰なのか。その誰かは幻ではないのか。自分で自分の首を絞めているだけではないのか。自分を絞めているだけならまだしも、思い込みで他者の場を奪っていることはないか。常なる点検が必要な私です。
松本 智量(まつもと ちりょう)
1960年、東京生まれ。龍谷大学文学部卒業。浄土真宗本願寺派延立寺住職、本願寺派布教使。東京仏教学院講師。
自死・自殺に向き合う僧侶の会事務局長。認定NPO法人アーユス仏教国際協力ネットワーク理事長。
※本記事は『築地本願寺新報』掲載の記事を転載したものです。本誌やバックナンバーをご覧になりたい方はこちらからどうぞ。