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ご旧跡ってどんなもの? ― 親鸞聖人のご生涯を辿る―

 来たる2023年は本山の京都・西本願寺で「親鸞聖人御誕生850年・立教開宗800年慶讃法要」が勤められる記念の年。関東の地には宗祖・親鸞聖人が42歳ごろから約20年間ご滞在され、由緒を伝える場所も多くあり、そうした場所を「ご旧跡」と呼びます。今回は、築地本願寺新報編集委員が「ご旧跡」について解説します。

―「ご旧跡」とはどんなものですか?

 浄土真宗の宗祖である親鸞聖人や、その法灯をご継承された歴代上人のご生涯での事跡が伝えられる寺々や、そのお弟子の由緒を伝える寺々をご旧跡と呼んでいます。

 親鸞聖人は、戦乱と度重なる天災によって混迷を極める平安末から鎌倉期に、90年のご生涯をかけて、時代に翻弄される人々に阿弥陀如来の願いを伝えられました。その親鸞聖人の遺徳を偲ぶためにご旧跡を訪ねることを「ご旧跡巡り」といい、かねてより広く行われてきました。

 親鸞聖人は平安末に、日野有範(ひのありのり)の子としてご誕生になり、9歳で出家して比叡山に登り、天台の僧侶として、20年間仏道修行されます。

楞厳三昧院の常行堂

比叡山延暦寺西塔の常行三昧堂。

 高い志を持ち修行を重ねる中、親鸞聖人は教えと現実の狭間で苦悶されます。そこで、聖徳太子創建と伝えられる六角堂に参籠(さんろう)し、苦しむ人々への救いと自らの悟りへの道を尋ねるのです。六角堂で聖徳太子の夢の告げを受け、親鸞聖人は29歳にして比叡山を去ります。

京都・頂法寺の六角堂

京都・頂法寺の六角堂。聖徳太子から夢告を授かった場所として知られる。

 そして、専修念仏(南無阿弥陀仏を称える念仏一つによって浄土へ生ずることができる)を人々に伝えていた法然聖人(源空聖人)の弟子となります。

しかし、専修念仏は、比叡山や興福寺などの従来の仏教から、強い批判を受けていました。また、後鳥羽院の女房が、法然聖人のお弟子が催した念仏の法会で結縁(仏教に帰依すること)し、出家した事件をきっかけとして、院の怒りを受け、法然聖人は土佐へ、親鸞聖人は越後へと配流に処されます。

吉水草庵跡 安養寺

吉水


法然聖人との出偶いの地である、京都・吉水草庵(現・安養寺)。

 5年後に配流は解かれますが、直後に師・法然聖人はご往生になり、親鸞聖人は京の都には戻らず、関東に移ります。その後、20年にわたって、関東の人々に法然聖人から受けた念仏の教えを弘めました。

 親鸞聖人は60歳を過ぎてから、多くの門弟を育てた関東を離れ、故郷である京に戻られ、晩年は著述に専念されます。
関東の門弟たちは、多くの困難を乗り越え、京に帰られた聖人を訪ねました。

 親鸞聖人ご往生の後、関東の門弟たちによって京の東山大谷に親鸞聖人のご廟が創られ、聖人の教えを受けた人々が聖人の遺徳を偲びつつ、遠路各地から参拝しました。ご廟は親鸞聖人の子孫によって護持されていき、このご廟が本願寺となっていきます。第8代の蓮如上人まで本願寺の住持(じゅうじ/住職)は、関東の親鸞聖人のご旧跡巡りを「坂東修行」と呼んでいました。

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親鸞聖人が荼毘に付された、京都・本願寺大谷本廟のお荼毘所。

 親鸞聖人の教えはお弟子たちにより各地に弘まり、親鸞聖人を慕う人々は本願寺の親鸞聖人の御影や親鸞聖人のご縁の地を巡拝しつつ、聖人の遺徳を偲んでいったのです。

 特に江戸時代に入り、庶民の間で遠方の寺社に参詣することが広く行われるようになり、浄土真宗でも親鸞聖人の遺跡やお弟子の方々が開基した寺々を紹介する「大谷遺跡録(ゆいせきろく)」や関東のお弟子の寺に伝わる縁起を紹介する「二十四輩順拝図会(にじゅうよはいじゅんぱいずえ)」などが開版され、ご旧跡参拝が一般の信徒の間で、広くおこなわれるようになりました。

―ご旧跡は、全国に何カ所ぐらいあるのでしょうか?

 江戸時代に編纂された『大谷遺跡録』4巻には、京都・北陸・信濃・関東・東海・近江に点在する161カ所のご旧跡の伝承が紹介されています。

―関東にあるご旧跡にはどんな特徴があるのでしょうか?

 親鸞聖人は42歳から60歳過ぎまでの約20年間、関東に滞在され、布教を行われました。歎異抄には「親鸞は弟子一人ももたず」という親鸞聖人の言葉が伝えられていますが、実際には記録に残る直弟子だけでも七十数名を数えます。その多くが関東在住でした。 

 関東のご旧跡には親鸞聖人が滞在され、布教されたと伝える小島草庵(茨城県下妻市小島)、稲田草庵(茨城県笠間市稲田)、笠間草庵(茨城県笠間市笠間)、大山草庵(茨城県城里町阿波山)、三谷草庵(栃木県真岡市三谷)などの草庵とお弟子の方々の由緒を伝える寺院が多くあります。なお、草庵とは親鸞聖人の住まわれた庵、現代で言う住居のことです。

―お坊さんや門徒の方は、なぜご旧跡に行くのですか?

 今でもご旧跡参拝は各寺院のご住職やご門徒により行われています。
ご住職方やご門徒にとって、親鸞聖人の遺徳を偲ぶ場であるご旧跡を巡り参拝することは歓びであり、感動ですらあります。ご旧跡を巡ることは、親鸞聖人の教化(伝道)のご苦労を偲び、その教えが私たちまで連綿として受け伝えられたことに対する感謝するという意味があると思います。

―一般の人がご旧跡を巡るときの楽しみ方を教えてください。

 ご旧跡に関するガイドブックが多く出版されておりますので、歴史を学びながら旅をするという楽しみがあると思います。また各地にはご旧跡の他、名所や名物もたくさんあるので、ぜひ巡ってみてはいかがでしょうか。

―関東のご旧跡で有名なものには、どんなものがあるのでしょうか?

 草庵では、親鸞聖人が関東に来られて最初に滞在されたと伝えられる小島草庵、関東伝道の拠点となった稲田草庵(西念寺)が有名です。直弟子の由緒を伝える寺々の中では、二十四輩と呼ばれる高弟24人のお寺から参拝されてはいかがでしょうか。

―ご旧跡巡りをするときのマナーがあれば教えてください。

  ご旧跡の中には、史跡として自由に訪れることができる場所もありますが、ご旧跡寺院は念仏の道場として活動されています。勝手にお堂に上がるなど、お寺にご迷惑になることは慎んでください。大人数で訪ねる場合は事前に連絡をしてお寺のご予定を伺い日程を調整する必要があるでしょう。その場合はご懇志を納めるのが礼儀だと思います。

(文/編集委員・酒井淳昭)


【ご旧跡がどんな場所か知りたい方へ!】
『親鸞聖人 関東ご旧跡ガイド』
著者:親鸞聖人関東ご旧跡ガイド編集委員会/本願寺出版社

親鸞聖人

関東や東北などにある親鸞聖人やその門弟ゆかりの寺院、ご旧跡71カ所を紹介する、ご旧跡ガイドブックの決定版。すべてのご旧跡に詳細なアクセス情報と地図を掲載するほか、各寺院に伝わる法宝物の豊富な写真や、参拝前に知っておきたい事柄をまとめた「参拝のこころえ」など、お役立ち情報も満載。

※本記事は『築地本願寺新報』掲載の記事を転載したものです。本誌やバックナンバーをご覧になりたい方はこちらからどうぞ。