幼少期のさかなクンが見せた、少し変わった「魚への愛情」 ~僧侶が読み解く『さかなのこ』
「仏教と関わりがある映画」や「深読みすれば仏教的な映画」などを〝仏教シネマ〟と称して取り上げていくコラムです。気軽にお読みください。
第89回「さかなのこ」
沖田修一監督
2022年日本作品
魚の生態や料理への豊富な知識をもとに講演や著作活動を続ける、さかなクンの自叙伝が原作です。小学生のミー坊は魚が大好きで勉強は苦手。振る舞いが独特で、同級生からはからかいの的になります。でもミー坊はニコニコとどこ吹く風。それはミー坊の母親が、ミー坊をまるごと尊重してくれていたからでした。
ミー坊の魚への愛情は普通の感覚とは少々異なります。高校時代、同級生と釣りに出かけたミー坊はアジを釣り上げます。
可愛いねーと喜ぶミー坊。最初は訝しげだった同級生はしだいにアジの可愛さに同調しますが、次の瞬間、ミー坊はナイフでアジを捌き始めるのです。
え? この可愛いアジを?
困惑しながら、刺身になったアジを口にする同級生たち。そこへ他校の不良が通りかかります。捌いたアジを踏みつける不良。ミー坊は怒りに震えます。
「お魚がかわいそうだと思わないの?」
なんだよ、お前らが殺したくせに、と笑う不良にミー坊は叫びます。
「殺したんじゃないよ!シメたんだよ!お魚さんに謝れ!」
本願寺派の食前のことばは「多くのいのちと皆さまのおかげにより、このごちそうを恵まれました」と始まります。「いのちのおかげ」により生かされていることの自覚と責任感を、私たちはどれだけ本気で持ち続けているでしょう。
『さかなのこ』の主役を演じるのは、のん。彼女はこの7月13日に、ご自身の肩書を「女優・創作あーちすと」から「俳優・アーティスト」に改定すると発表しました。この行為もまた、『さかなのこ』のテーマに大きく重なって見えます。
松本智量(まつもとちりょう)
1960年、東京生まれ。龍谷大学文学部卒業。浄土真宗本願寺派延立寺住職、本願寺派布教使。
自死・自殺に向き合う僧侶の会事務局長。認定NPO法人アーユス仏教国際協力ネットワーク理事長。
本記事は築地本願寺新報の転載記事です。過去のバックナンバーにご興味のある方はこちらからどうぞ。