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体を壊して会社を退職後、26歳の僕が僧侶になったわけ

特定の宗教に属さない。そんな人が多いこの時代に、なぜ僧侶という道を選んだのか。浄土真宗本願寺派の僧侶の人々に、フォーカスして、「僧侶になった理由」を紐解きます。

今回ご紹介するのは、築地本願寺に僧侶として勤める藤井陽介さんです。学生時代に僧侶の資格を取得したものの、「自分には向かないかも」と、一度は会社員としての道に進んだ藤井さん。しかし、そんな彼が再び僧侶を目指した理由を聞きました。

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回答者:藤井陽介・26歳 埼玉県出身

祖母の言葉がきっかけで、僧侶を目指すように

――最初にお坊さんになろうと思ったきっかけはなんですか?

藤井 私は、元々お寺生まれというわけではなく、幼少期は、音楽が好きなふつうの子供だったと思います。ですが、祖父母の代までは僧侶の資格を持っていて、浄土真宗本願寺派の鹿児島別院で働いていました。

――お寺と完全に無縁というわけではなかったんですね。

藤井 そうですね。いまでも印象に残っているのは、小学校1年生の時に、鹿児島の祖母の家に遊びに行ったときのことです。祖母の家には大きな仏壇があって、祖母は毎日朝と夕方に、お経を唱える、浄土真宗でいう「お勤め」をしていました。そのとき、私も一緒にやってみたんですね。初めてのお勤めですごく下手でしたが、祖母はそのお勤めをほめてくれました。そのとき、祖母からほめてもらったのがきっかけで、「お坊さんになりたいな」と思うようになりました。

ただ、その後、ずっと「お坊さんになりたい」と思っていたわけではないんです。中学生になるころには、祖父母が僧侶であることを周りにからかわれたりすることもあって、「やっぱりお坊さんにはならない!」と思ってましたから(笑)。

知識ゼロから、龍谷大で僧侶の勉強をスタート

――そこから、お坊さんになるまでの道のりはどんなものでしたか?

藤井 高校3年生の頃、大学受験の進路で悩んでいたら、祖母から龍谷大学を勧められ、東京の大学と京都にある龍谷大学を受けました。ご縁があったのは龍谷大学でしたので、そこで腹をくくって、京都へと向かい、仏教に関する知識ゼロの状態で龍谷大学に入学しました。

――大学時代は、どんな活動をしてたんでしょうか?

藤井 大学では仏教系のサークルに入り、授業やサークル活動を通じて、浄土真宗の「み教え」を学びました。そのほか、お寺が行っている法話や子ども会などに、先輩や同期の友人と一緒に行って、お寺とはどういうことをするのか、また僧侶がどういったことを日々行っているのかを、イチから勉強させて頂きました。

会社員になるも、体を壊して退職。再び僧侶の道を志す

――お坊さんになったのはいつですか?

藤井 大学4年生の2月、卒業直前に得度(僧侶になるための研修)を受けて、僧侶になりました。卒業後は、勤式(ごんしき)指導所というお経の勉強をする場所へと通いました。ところが、前期試験で落ちてしまって、かなりショックを受けました。

そのとき「自分は僧侶には向いてないのかな」と思い、たまたま知人の紹介があったため、翌年には普通の会社員として就職を決め、黒豆と砂糖の卸業者で営業・配達の仕事をしていました。そのなかで、人との会話の仕方や、業務に対してどう向き合っていくのかという、サラリーマンとして当たり前のことを学ぶことができました。

その中で「浄土真宗だったら、こう考えていくのかな。こうしたら人間関係が上手くいくのかな」などと考えることも多く、その際、自分の生活の中に仏教が根付いていることに気が付くことができました。しかし、途中で、身体を壊し、会社を辞めることになってしまいました。

会社員時代に「浄土真宗が自分の生活に根付いている」と身を持って感じていたため、体調が回復した後は、会社員に戻るのではなく、再び僧侶の道を目指すことを決めました。そして、大阪にあるお坊さんの専門学校を経て、現在、築地本願寺でお勤めしています。

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意外と質素ではなかった、僧侶の生活

――お坊さんになったときの周囲の反応は?

藤井 地元の友人からは「本当にお坊さんになったの?」と疑問に思われましたが、坊主頭の写真を見せると本当になったんだと、驚かれました。両親からは、「おめでとう、やっとお坊さんになったんだね」と、祝ってもらいました。

――お坊さんになってよかったことは?

藤井 浄土真宗の「み教え」をお聞かせ頂くことが多いので、考え方に柔軟性が身についてきたなと思います。

――お坊さんになって大変なことは?

藤井 僧侶というより、築地本願寺の業務としての承仕(じょうし・法要の準備などを行う僧侶としての仕事)は、肉体労働な部分と作法などの繊細な部分があるので、大変だなと感じます。同時に、神聖な場所に身をおくことが有難い反面、緊張することが多いので、それも大変だなと思います。

――お坊さんになってみて、意外だったことは?

藤井 質素な生活を送るのかと思っていましたが、案外普通の人と変わらない生活だなぁと思いました。朝起きて、ご飯を食べて、買い物にも行って、お肉や魚、お酒なども感謝していただきます。また、髪の毛も剃髪する必要がないので、派手にならない程度に好きな髪型にしています。

――築地本願寺の好きなところを教えてください。

藤井 まず、いろいろな方と関われることが、楽しいです。同時に、その経験が「勉強になるなぁ」と日々感じています。

――将来、どんなことをしたいですか?

藤井 正直、まだ定まってはいません。ですが、日々の生活の中で常に阿弥陀さまが見守ってくださっていることを実感しながら生活を送れたらいいなと思います。

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【そのほかのお坊さんを目指した人の声を読むなら……】