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《詩》白木蘭

どうしてもあなたを認識できない
手を取ろうとしても
いつの間にか霞のなかへ溶けている
強いまばたきのあとの
ぼやけた世界のように

けれどあなたはどこにでもいる
机に向かうときの背後
風呂場の隅
時々姿をくらまして
いるはずなのにいないのだ
探すわたしを取りのこし
月へと還ってしまってから
もうどれくらいが経っただろう

ひとり夜空を見上げている
残寒の風をまとって木がゆれる
足元に落ちた花弁をひろいあげると
ほどなくして先端から溶けた
ほろほろとまるで春の雪となって
手のひらへ降りそそぐ
雪が土へ沁み込み、還っていくことのように
あなたは還ってきたのだ
そのことはいつの日かの天啓であり
あの日泣いていた子どもにとっての救いだ

古屋朋