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《詩》再会

いちどあたためた部屋で
すこし窓を開けると入ってきた
足元をそっとなでられて
かすかに顔の前を通りすぎた
それは冬の到来
かれがもつ、やさしいてざわり
産毛がうっすら生えた皮膚に風が吹く
それは冬の頬ずり
かれの知るたったひとつの挨拶の方法

肺が痛くなるくらい吸いこんで
空に向かって吐きだせば
ふんわりと浮かびあがって
あたらしい季節になれる
たった数日、雪が町をしろくすれば
わたしたちがリセットされて
やっとあたらしい季節になれる

ふたりは手を取り合って
また会えたことをよろこび合う
寒空のふかい呼吸は
冬への返事
共にゆこうというあたたかな会話

小さな鳥が飛んでいった
空たかく
空ふかく
うすく、しろい幕が張ったような
吐き出した息がみちたような
目をこらしていなければ
忘れてしまうような空を
飛んでいった
かれはうれしそうに鳥を追いかけ
いつか少年少女であったひとりの人間を
連れてどこまでもゆく
すぐに別れがくると知っていても
まためぐるこの日のために
かれは翔けて、どこまでもゆく

古屋朋