黒い紫陽花|掌編小説(#シロクマ文芸部)
「紫陽花を見に行こうよ。週末、晴れるみたいだし」
彼氏からのメールに、すぐに返信する気になれなかった。
――なんで紫陽花なの?
心の中で呟く。見るものなんて、他にいくらでもあるのに。
田舎から東京に引っ越してきて一番良かったのは、紫陽花を見なくて済むことだった。あの日以来、紫陽花は見ていない。いや、見ないようにしている。
中学2年の時、学校から帰ると、家の前には近所の人達がたくさんいて、その中心にお母さんがいた。変だと思いながらも、平静を装って「こんにちは