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僕と彼女の宇宙旅行【連載小説#16】

#16 レイトとヒューゴ少年

 ガタガタ、ギギギイイイ、ゴロゴロ、、、

 洞窟は小刻みに揺れ、岩の擦れる音や小石が転がる音が、一気に緊張感を高めている。
 揺れは20秒か30秒か。少し長めに続いた。

「...おさまったかな...。」

 岩壁について手を放し、周囲を確認する。何かが変わった様子はないだろうか。足元も小石が少し増えている気はする。
 大丈夫。ここで止まっている場合ではない。できるだけ気にせず、前に進むことにした。

 とは言っても、地震でこの洞窟がどうにかなってしまうんじゃなかと、気が気ではないのだが。

 しばらく歩くと、洞窟の分岐に出くわした。

「これは、、、どっちが正しいんだ、、、。」

 この先に何があるかもわからないが、レイニーに会えるかもしれない。その分岐はただの分かれ道ではなく、3つの全く異なる道に分岐していた。

 ひとつは真っ直ぐ。

 もうひとつは左に曲がり、登り坂になっている。

 最期のひとつは右に曲がり角、下り坂だった。

「どうしよう…。どれが正解だ…。」

 真っ直ぐは安全な気がするし、登りだと地上に近づき、下りだと更に地下深く潜ってしまう。

 地上に上がりたいのは山々だ。まずここがどこなのか知りたい。奇妙な小屋の扉から、明らかにどこか違う所に繋がっていた。

 休憩も兼ねて、少しの時間座りながら考えてみた。

 僕はここに来るまでに、安全な道を選んで来ただろうか。

 安全第一に考えるなら、さっさと宇宙船に乗って母星に帰り、大人を連れてまたこの星に戻って来ればいい。

 でも、レイニーは今どうしてるだろうか。一刻も早く見つけて、一緒に帰りたい。その一心で、我ながら冒険的な行動をとったのだ。今さら、安全な道を選んで何になる。

「この洞窟に来た意味は、、、きっと奥深くにあるはず。こっちだ!」

 下り坂の先にある可能性に懸けて、僕は右の方へ進む決心を固めた。

――――――――

 今日は星空がやけにくっきりと見える。
 こんなに綺麗な星空はずっと見ていない気がする。

 レイトは洞窟型の自宅から出て、焚き火をしながら空を見ていた。

「マークは無事に辿り着けただろうか...。」

 独り言を呟く。もちろん、山の斜面にある秘密の洞窟に住んでいる変人に返事をしてくれる人などいない。

 そう思っていた。

「おい、お前。マークの事知ってんのか?」
「え?誰だ!?」

 飛び上がるほど驚いた。この場所を知っている人はいないはずだ。今朝までここに居たマーク以外は。

「おいらはヒューゴ、って名前なんてどうだっていいんだって。マークの事知ってんのかって聞いてんの。」
「あぁ、ここにも来た。今朝ここを立ったよ。君は友達かい?」
「いや、たまたま出くわして国境まで送ってやったんだ。」

 ヒューゴ少年も一時的に彼と行動を共にしていたようだ。国境まで行ったという事は、この国を出て行ったのだろう。

「そうか。でも、なぜ国境に?」
「マークと一緒にここに来た彼女とも会ったんだ。その彼女が山を越えて行くの止めなかったから、それをマークに教えてやったんだよ。」

 それで国境を越えて合流しようとしわけか…。しかしそれなら...。

「それなら、森に一人で入ったってことか。」

 あの森には『魔女の棲家伝説』がある。
 実際に魔女を見た者はほとんどいないのだが、それもそのはずで、魔女を見た者は帰って来れなかったからだと言われている。

「魔女の棲家の話はしたのかい…?」

 ヒューゴ少年は『あ...』という顔をしている。

「あー...話した...よなぁ…いや...話して...。」
「話してない?」

 ヒューゴ少年は、気まずそうにこちらを見ている。

「君がここに来たのは、それが理由なんだな?」
「......うん。」

 魔女がいるかもしれない森。
 真っすぐ森を抜けているなら無事だろうが、マークはきっと彼女を探しているはずだ。
 もし、森の中に人がいる痕跡を見つけたら、きっとその周りを探し回るだろう。と、いう事は…。

「マークと離れてからどのくらい時間が経ってる?」
「3時間くらいじゃないかな。時計とかもってないからわからないけど、まだ陽は高かったから。」

 魔女がいるのか、いないのか。
 魔女がいたとして、何ができるのか。

「彼を、マークを探しに行こう。」

 一晩一緒にいただけの少年だが、私がこの国、この星に来た経緯を考えれば放ってはおけない。

「ヒューゴ少年。一緒に来てくれるか。」
「うん!行くよ!」

 私たちは、一直線に国境の向こうにある森に向かった。

つづく

T-Akagi

【 つづきはこちら(note内ページです) 】


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