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僕と彼女の宇宙旅行【連載小説#17】

#17 誰かいる

 洞窟はやはり暗く、少しじとっとした空気が緩やかに、まとわりつくように流れる。

 二手に分かれた道のうち、下り坂を選んだマークは、転ばないように慎重に慎重に歩みを進めていた。

「少し寒いな…。」

 洞窟は深くなればなるほど、太陽光で温かい地表からは遠ざかっていく。近くに溶岩や源泉でもない限り、地下が温まる事はない。あったらあったで大惨事だが。

「おーい! レイニー! いるのかー! ...ん?」

 歩きながら度々叫んでいたマークだったが、さっきまでと様子が違う事に気が付いた。

「おーーい!! ...やっぱり。」

 さっきまでは狭い洞窟で籠ったように響いていたが、前方へは声が抜けていくようだった。どうやらこのまま進むと、少なくとも今より広い空間が広がっていそうだった。

「暗いな…。灯りは…無さそうか。」

 洞窟を抜けたところには、人口で作ったと思われる部屋のような空間が広がっていた。

「これは…。見た事あるな。たしか...。」

 数十分前、森の小屋で見た物と同じ装飾品が置かれていた。部屋の造りもそっくりに出来ている。
 違うのは窓がない事だった。窓の代わりに絵画が飾られている。絵は抽象的で人のようで人でない何かが描かれていた。
 そして、小屋では扉があった位置にはやはり同じ扉があった。

 足元に気を付けながら、扉の前まで来た。

「鍵...大丈夫だよね…。」

 少しだけ躊躇したふりをしてみたが、この部屋に進むべき道はそこしかない。数十分前と同じ動作で持っていた鍵を差し込んだ。

 するりと入った鍵は、簡単に捻る事が出来た。やはり、洞窟に入った扉とこの扉は同じ、なのだろうか。

 扉をちゃんと開いた。
 さっきと同様にそのまま洞窟が続いているのかと思ったが、開けた扉の向こうは洞窟ではなかった。

「廊下...?明るい…。」

 扉の向こうに続いている廊下には、灯りがいくつも点在しているように見えた。そのまま進んでみると、その廊下がとんでもなく先まで続いているのに気が付いた。

「広い…。どこまで続いてるんだ。」

 途方に暮れてトボトボと歩いていると、ガシャンと鉄のぶつかり合うような音が鳴った。
 緊張感は一気に極限にまで上り詰める。

「...。」

 マークは黙ったまま、なるべく音を立てないように廊下を少しずつ少しずつ歩いて行った。

 すると突然、音がどこから鳴っているのか判明した。

「どなたかいるんですか…。」

 廊下の右側に鉄格子の空間があるのに気が付いた。マークは鉄格子の中に気配がするのに気が付き、咄嗟に問いかけてしまった。

「...。」

 返事は帰って来ない。
 しかし、確かにそこに人の気配を感じた。

「すいません、ここに迷い込んでしまって。」
「...。」

 警戒されているのだろう。それも当然だ。
 この鉄格子の中に人がいるとして、その中にいる人にとって僕は突然現れて声を掛けて来た見知らぬ客人だ。

「人を探してる途中、洞窟を通ってここまで来てしまったんです。それで、この廊下までたどり着いたんですけど…。もしかして、誰かに捕らえられているんですか。」
「はい。捕まっています。」

 声の主は女性だった。綺麗な声だが、どこか疲弊しているような感じに聞こえた。

「ここには、どうやっては入ったのですか。鍵がかかっていたと思いますが。」

 質問したつもりだったが、質問で返されてしまった。

「僕、はぐれてしまった彼女を探していたんです。森の中で小屋を見つけて、扉を入って進んで来たらここに辿り着きました。」
「という事は、森の小屋で見つけた鍵があるのですね。」
「そうです。これ。」

 マークは、小屋の鍵をポケットから取り出した。

「その鍵、森に棲みついている魔女の物です。」

 魔女の鍵。この鍵は魔女の物だと、その女性は言う。

「その鍵は、魔女が作った全ての鍵をも開ける。この鉄格子を開ける事が出来るはず。開けては頂けませんか。」

 確かに鉄格子には扉がついていて、鍵穴が存在する。しかし、小屋やこの廊下に続く扉の鍵穴とは明らかに違った。

「鍵穴の形がぜんぜん違うんですけど。」
「大丈夫です。鍵穴に合うように出来ています。」

 本当かな、と思いながら、半信半疑で鍵を鍵穴に合わせて押し込んでみた。すると、鍵はみるみる鍵穴に吸い込まれるように入っていく。

「凄い…。」

 鍵は簡単に開いた。
 すると、牢獄の陰から華奢な女性が現れた。

「ありがとうございます。」
「え!えっえ!」

 マークは驚いた。扉から出て来た女性は、マークの腰に手を回し抱きしめて来たのだ。マークはこういう状況に慣れてはいない。

「あれ、驚かせてしまいましたか。」
「あ、いや、慣れてなくって。」

 抱擁を解かれたマークは顔が真っ赤になっていた。牢獄の女性は、それを見てクスクスと笑っている。

「ごめんなさい。おかしくって。うふふ」

 少しだけ笑い声と温かさが広がったように思ったのだが、マークは我に返った。

「そうだ。人探しをしているんです。何か知りませんか?僕と同じくらいの歳の女の子なんです。」
「それは、昨日の話かな?」
「そうです。ちょうど昨日。もしかして、見たんですか!?」

 女性は何か知っている様子だった。

「いいえ、見てはいないわ。この廊下を通ったのは魔女本人だけよ。」

 女性はレイニーの事を見たわけではなかった。
 期待させといて、そりゃないよとは思いつつ、別に捕まっていた女性が悪いわけではない。

「そうですか…。わかりました…。」
「でもね、感じるのよ。ここには、もう一人捕まってる。昨日から。」

つづく

T-Akagi

【 つづきはこちら(noteページ内です) 】


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