僕と彼女の宇宙旅行【連載小説#18】
#18 監禁されていた女性
諦めていたマークは一瞬耳を疑った。
監禁されていたその女性は、ここにレイニーがいると言った。
しかし、見てはいないと言ったのに、どうしてレイニーがいると言い切れるのだろう。
「どういう事ですか。見てないのに、ここにいるのがわかると。」
突然の事で、不躾(ぶしつけ)な聞き方をしてしまった。
「ええ。この廊下のどこかにいるはずです。」
「なぜ、なぜそれがわかるんですか。」
「それは秘密。連れてってあげる。」
助けた女性は、それ以上何も言わず廊下を進み始めた。
すたすたと歩いて行く後ろ姿からは、迷いを感じられない。
素直に付いて行ってはいるが、大丈夫なのだろうかと不安な気持ちにもなってしまっていた。
それでも、レイニーを見つけるためだ、と言い聞かせついて行った。
――――――――
レイニーは殆ど灯りの届かない部屋に閉じ込められていた。
見知らぬ女に声をかけられてから、しばらく時間が経ったが何も起こらない。
レイニーは、その女が言った”あなたにはやってもらう事がある”という言葉が引っかかっていた。
私たちは偶然にしてこの星に辿り着いた。
そして、偶然マークが捕まってしまった。
その”偶然”だと思っていた事が、全て”偶然”じゃなかったら。
足枷を取り去る事のないまま、レイニーはそんな事を考えて、焦りが生まれ始めていた。
そんな時、遠くの方で人の話す声が聞こえた。
どうやら、こっちに近づいてくるようだった。
――――――――
所々に牢屋のあるこの廊下は、とても細長かった。
ゆうに100m以上歩いているが、まだ先は見えない。
「ここって何なんですか。あなたはなぜ捕まっていたんですか。」
「...。」
レイニーのいる場所まで連れてってあげると言ってからというもの、女性は返事をしてくれなくなってしまった。
何か聞かれたらまずい事でもあるのだろうか。不安は更に大きくなっていた。
「...。」
それでも、歩みを止める様子はなかった。
そして、ある地点でピタっと足を止めた。
何の合図も無く立ち止まったまま、微動だにしない。
「ここよ。さぁ、助けてあげて。」
足を止めた時には気づかなかったが、目の前には扉があった。
というよりは、扉が現れたように見えた。
「ここって…この中に、レイニーが??」
「そうよ。さぁ、あなたが持っているその鍵を使って。」
まるで開錠を催促されるているかのように、マークは扉の前に立ち、鍵穴に鍵を当てがった。
「あれ?」
鍵穴に鍵が合わない。
「鍵穴に合わないんですけど…。」
「え…そんなはずは...。」
女性は不思議そうに鍵穴を覗き込んだ。
「この扉じゃないんじゃないですか?」
「そんなはずない。魔女が作った扉は全部この鍵で…。」
そう言ってマークが握っている鍵に手を伸ばそうとした。
しかし、その女性は鍵に触れる直前に、硬直したように手を近づけるのをやめた。
「ここじゃなかったかもしれない。先を行ってみましょう。」
女性は突然態度を変えた。
それはまるで鍵に何か秘密があると言わんばかりに。
「えっ、レイニーはここじゃないんですか。」
「多分ね。ここだったら扉が開いているはずだから。それより、ここから先はもう真っすぐだから、あなた一人で行きなさい。私はここまで。助けてくれてありがとう。」
「ここまで、って。あ、行っちゃった。」
止める間もなく、踵を返して廊下を逆に歩いて行った。
何とも気持ちの悪い別れ方だったが、この先にレイニーがいるというヒントはもらえた。
「このまま真っすぐだな。」
両脇の牢屋らしき場所を確認しながら進んで行った。
すると、遂にその時がやって来た。
「ねぇ、」
聞きなれた声が聞こえた。
「ねぇ、もしかして、マーク?」
「レイニー?レイニーなの?」
「うん、私。」
牢屋の中には、レイニーがいた。
「ちょっと待ってね。すぐ開ける。」
鍵で牢を開錠し、中に入った。
「マーク!マーク!」
「レイニー!」
たった一日ではあったが、見知らぬ星で離ればなれになり、ましてや牢屋に閉じ込められていた。不安は計り知れない。
そして、この場所から一刻も早く離れたい。
「鎖みたいなものに繋がれてて…。」
「いけるかな…。」
鍵を使ってみた。するとその鍵はうまく足枷にも合致し、繋がれていた鎖も解く事が出来た。
ほんの数秒だったが、抱擁を交わし、今の状況を整理した。
「今、ここがどこなのかわからないんだ。レイニーはわからない?」
「わからない。私、マークと離れた後の記憶がなくって。」
「そうか。僕はあのまま兵隊さんたちに連れてかれて...」
昨日からの経緯を素早く伝えた。
「じゃあ、こっから逃げよう。」
そう決めた時には、もうさっきまで居た女性はいなくなっていた。
つづく
T-Akagi
【 つづきはこちら(noteページ内です) 】
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