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G. Polya "How to Solve It" a new aspect of mathematical method.

予定どおり、お盆で頂いた1週間の休暇とプラス3日間で今年の6冊目の洋書、G. Polya 著 "How to Solve It" を読み終えた。分量的にはそれほど多いわけではないし、本来、すでにマスターしていなければならない内容だし、すらすらすらっと読めないといけない本ではあるので、ちょっと時間をかけすぎたかな、とも思う。

数学の問題をどのような手順で解くのか、どのように考えたらよいのか、学生に、あるいは教師の手引きになるように書かれた古典的な名著にしてベストセラーだ。John H. Conway による序文によれば、1945年に出版され100万部以上売れ、17か国語に翻訳をされているとのことだ。

日本語訳も出ている。すでに読んだ、という方もいるだろう。それから、なんとも味わい深い表紙なので、なんとなく見た憶えある、という人もかなり多いのではないだろうか。

数学の問題に取り組む際のツールボックスとして強力ではあると思う。そして「そうだよな、問題を解くためには引き出しをたくさん持つことが大事だし、問題を解決するための4つのステップをきっちりと踏んで地道にたゆまぬ努力が必要だし、目の前の問題を掴んで離さないガッツが必要だよな」とか「やはり当たり前のことをちゃんとする、それを続けていく、それが大事なんだなぁ」と、改めて認識はさせられるが、自分の中に引き出しをたくさん作る具体的な方法や当たり前のことをやり続けるためのメンタル強化法などは本書の範囲外、自分たちで頑張るしかない。

だから、読んだら考え方が即変わる、とか、地頭がよくなるとか、読んだらすぐに応用が利くサプリ、というわけではないので、そのような本が読みたい人は避けたほうがいいだろう。

即ち、一般的に実用的な問題解決に即役立つ内容ではない(*1)と思う。しかし、理詰めで構築されている数学の世界で考え方の訓練をしておくことは、現状も不確かで変化が激しく先が読みにくい時代において、少しなりとも心の平安が得られる、そんな助けになるのではないか、と思う。

私にとっては、自分が自然と身に着けている考え方や問題への対処のしかたがうまく整理されたような部分もあり、また、自分が足りない部分がどこにあるのか改めて認識させられたところがあり、なかなか読んでよかったと思う。

以下、本書の内容を紹介しておこう。

本書は、自分自身にあるいは生徒に問いかける質問やヒントのリストからいきなり始まる。数学の問題解決のステップごとに分けてあるが、少々唐突かもしれない。本文は、4章構成だ。

1. "In the Classroom"
20のセクションからなっていて、最初の Section 1 から 5 は、冒頭のリストの考え方と解説を加えている。Section 6 -17 は実例を交えながら、問題を解くときの4つのステップごとにどのようにリストの質問・ヒントを使うか論じた後に、Section 18 - 20 で例題を追加している。

2. "How to Solve It"
短いパートで、問題を解くときの4つのステップごとに、どんな手順でどのように考えて取り組むのがよいのか、生徒と先生の対話形式で論じてある。
急ぐ方は、冒頭のリストをざっと見たあとに、ここだけ読んでもいいだろう。普段自分がどのように考えているのか照らし合わせてみても面白いし、問題への取り組み方へのいい整理になっていると思う。

3. "Short Dictionary of Heuristic"
short dictionary とあるが、この部分が一番長い。アルファベット順に67のキーワード・キーセンテンスが並んでいて、個別に深堀してある。ヒューリスティック(直観・経験・発見による手法)な視点を著者が重要視していることがよくわかる。

4. "Problem, Hints, Solutions"
読者が取り組むことのできる問題が20点提示されている。それぞれに対して、ヒント、解答、が順番にセクションを分けて書いてあるので、具体的にどのように本書の考え方が適用できるか経験することができる。

Part I Section 20

上に「問題を解くときの4つのステップ」と書いたが、数学の問題に取り組むためには4段階のステップを踏む、と著者は説く。

1. "Understand the problem" (問題を理解する) 
2. "Devising a plan" (解決の道筋をつける)
3. "Carrying out the plan" (道筋にそって解答を求める)
4. "Looking Back" (振り返る)

最初のステップは2つにわけることができる。
1-1. "Getting acquainted"
 少なくとも問題として書かれていることは理解されなければならない。
1-2. "Working for Better Understandings" 
 問題を別の様々な角度から見たり、背景や目的を理解するように努めるなど、問題について理解を深める。

図を書いたり記号化したり、数式なら実際に数字を入れてみる、解答から逆に考えてみるなど、してみることが大事だ。20年ほど前に何年か私と一緒に仕事をしていたドイツの友人・キール大学の Prof. Michael Hoeft (ヘフトさん) は、"playing around" と言っていて、ぴったりの言葉だなぁと思い、私も折りに触れて "playing around" と言う。

2つ目のステップが非常に重たい。一般化してみたり分割したり特殊なケースを考えてみたり、抽象化した形式をあてはめてみたり、などして解決のヒントを求めるわけだが、キーワードは補助線、補助問題、補助定理だ。

私が本書を読んで「なるほど」と目から鱗だったのは、この点だった。どうにかして、自分にとって既知の問題の組み合わせになるように補助線を引くのだ。もちろん、そうであっても既知の問題の解法や解答がそのまま使えるわけではないが、それらに関連する、応用できる、そういう問題に落とし込むようにすることだ。

また、直観による答えを単純に解だと信じてはいけないが、しかし解決の糸口になることもあるのでバカにしてもいけない。Part III Dictionary の "Examine your guesses" にいいフレーズがあったので引用しておこう。

your guess may be right, but it is foolish to accept a vivid guess as a proven truth - as primitive people often do.
your guess may be wrong, but it is also foolish to disregards a vivid guess altogether - as pedantic people sometimes do.
Guesses of a certain kind deserve to be examined and taken seriously

G. Polya "How to Solve It" p.98

実際に解を導くのは、もう一つ難しいステップだ。数学での解答は、与えられた条件の中で水も漏らさず、すべて正しいロジックで組み立てられたものでなければならない。解いている間に細部にこだわりすぎて全体を見失うと解答にたどり着かないし、かといって細部は最終的にはちゃんと詰めておかなければ正しい解答にならない。

何が必要か、というと、著者は4点を挙げている。

  1. formerly acquired knowledge (知識)

  2. good mental habits (気持ち・姿勢)

  3. concentration upon the purpose (集中力)

  4. good luck (運)

まぁ、知情意に運、といったところだろうか。これは、ステップ3だけではなく、全体に言えることだとは思う。とにかく問題を掴んで離さないガッツが大事だと強く思う。


さて、意外と見逃し勝ちなのが、振り返りだ。

目の前の問題が解けたら、「よし終わった、やった、気分すっきり、さ、飲みにでも行くか」と達成感にひたるのは、まぁいいとして、最後に心がけたいところが、振り返りだ。

ポイントは、他にも解法がないか、もっとスマートな解法はないだろうか、あるいは、この問題が解けたことで関連する問題が立てられないだろうか、例えば一般化・特殊な条件、あるいは形式化・概念化・具体例の考察など。

そうすることで、自分に新たな知識と経験が加わり、別の問題を解く力になるのだ。

なお、全般、教師の視点と生徒の視点とで書かれているが、 part 1 では、指導する側の留意点が強めだと思う。


さて、最後のパートでは 20問、意欲ある読者のために、と問題があるが、1問目は、私はすでに答えを知っていた。たぶん有名な問題だからここに引用しても問題なかろうから、ちょっと引用しておこう。

問題1:A bear, starting from the point P, walked one mile due south. Then he changed direction and walked one mile due east. Then he turned again to the left and walked one mile due north, and arrived exactly at the point P he started from. What was the color of the bear?

※実は解はよく知られている一つだけではない。私もそこまで考えなてなく、解答を確かめて見て目から鱗だった。 迂闊であった。
※また前提条件として述べられていないこともあるので、解答はきちんとそこも詰めたうえで記述される必要がある。



■ 注記

(*1) 私は教えるのが下手だ。

20年近く前のことだったか、娘が小学校の高学年のときに、娘の算数の宿題を教えてやってほしいと妻に頼まれて教えようとした。考え方やロジックを教えて自ら答えを導きだせるように、また他の問題に応用がきくように、そのように教えようとした。しかし、当の問題がわからない以前に、その問題を解くための前提になっている知識や概念が不足していることがわかった。「え、そんなことも分かってないの?」そこから教えようとする、でも教わる側は何を言われているのかわからない。目の前の問題の解決にどう結び付くかがさっぱりわからない。私も娘もイライラする。イライラするから余計にわからない。しまいに泣きべそ、妻から失格退場宣告されてしまった。

娘と妻にとっての問題は、算数の問題を解くことではなく、宿題を早く終わらせることだったのだ。

このような局面では、本書はあまり役に立たないことだろう。・・・いや、もし本書の内容を深く理解して体得できていて、なおかつ、相手の知りたいこと、解決したいことを見抜いて寄り添うことができれば、ものすごく役に立つのかもしれない。後の祭りではあるが。

■ 関連 note 記事

よく言われることだが、数学の試験問題を解くには読解力が大事だ。

この記事で使っている写真は数年前に訪問したドイツのキールで、記事中の写真で私と談笑しているのが、Prf. Michael Hoeft ヘフトさんだ。

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