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対称性がもたらす統一:Michio Kaku: The God Equation "The Quest for a Theory of Everything"


今年の4冊目の洋書、カク・ミチオの新著を読み終えた。タイトルと表紙を見て少しスピリチュアルっぽい内容かと思ったらそんなことはなく、また、超弦理論に関する詳しい解説書かと思いきや、そんなこともなく、ニュートンの古典力学から電磁気学、相対論、量子論、標準模型、と歴史をたどって最新の超弦理論までコンパクトにまとめられた理論物理学全体の入門書で、万人におススメできる。

私達人類は、私たちの生きるこの世界がどのようにあるのか、この世界はどのようにして生まれたのか、追い求めてきた。理論物理学は数学を武器として、観測と実証により実際の世界の裏付けを得ながら、より根源的なものを求めてきた。

第1章では、古くはギリシャ時代、デモクリトスそしてピタゴラスが、世界を構成する根源的なものとして、粒子と波動の概念を持ち込んだところから話を始め、ケプラーとガリレオによる天体観測からニュートンによる古典力学の確立、ファラデーによる電気と磁気の相互作用の観測と場の概念の導入からマクスウェルの電磁気学の確立までを、さらっと流すように触れる。

第2章でアインシュタインによる特殊相対性理論と一般相対性理論の確立とその意義を扱い、さらに第3章で量子力学の確立とその意義を扱う。

第4章で、大統一理論の確立の試みの失敗のエピソードから始まり、QED理論(量子力学と電磁気学の統一)、QCD理論(強い力の理論)、ワインバーグ=サラム理論(電磁気学と弱い力を統一した理論)、ヤン=ミルズ理論、から標準模型(電磁気・強い力・弱い力の統一)の確立、ヒッグス粒子の確認まで進める。さらに第5章では、相対論と量子力学両方の理論から導き出されるホーキング輻射、ブラックホールやワームホール、時空のトンネル、背景輻射、インフレーション宇宙について解説し、重力子・重力波まで扱う。

そして、第6章で重力と標準模型を統一する10次元の超弦理論・11次元のM理論の考え方が説明される。第7章は現状の究極の理論としての超弦理論について、その実証の難しさや無限の解を持つことなど困難性や解釈を議論する。また、ご本人は米国のキリスト教徒、ご両親は仏教徒であることから、それらのある意味対極的な世界観と、それまで述べてきた最新の宇宙論による世界観と、それらをどのように考えるのかに触れて終わる。最後のパートは私にはどちらかというとナイーブに思えるが、物理学者はどちらかというとロマンチストでナイーブな人が多いのかもしれない。

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本書を読めば、これまでの理論物理学の各理論についての概観も得られると思うし、また、それぞれの理論に貢献した物理学者の名前や理論や発見の単語など、ちょっとキーボードを叩いてネットで調べながら読めば、かなりすっきりと最新理論までたどり着くことだろう。

ただ、新たな対称性という概念と、それに伴って新たな場とその場を構成する粒子が導入されるという考え方は、やはり普通の人にはとっつきにくいかもしれない。何か2つの異なったモノ (物質や力あるいは概念)があったときに、もともとこれらの2つのモノは、実際は同じ1つのモノ の表裏であると考える、その考え方だ。そのときに、つまりあるモノ の表と裏の対称性が成り立つうちは表と裏は同じにしか見えないが、対称性が破れると表と裏が違って見えてくる、というわけだ。・・・というか、私もあまりよく理解できていない。

「対称性」が理論物理の発展の要であり、重要な概念であり、それを軸に本書が進めているので、この点がなんとなくでも得心いかないと、さっぱりわからん、という気分になるだろう。

とはいえ、太陽がどのようにして輝いているのか、宇宙はなぜ真っ暗なのか、ブラックホールに吸い込まれたらどうなるのか、宇宙の始まりビッグバンはどのように起こったか、などなど、多くの人の知的好奇心を満たすことのできる本だと思った。

無限にたくさんの宇宙が、生まれては一瞬で消え、たまたま条件のよかった我らの宇宙が広がり温度が下がっていく過程で、4つの力が一つ一つ分岐して生まれ、素粒子ができ原子ができ分子ができ、星、銀河、銀河団、超新星、ブラックホール、そして数々の星系、惑星ができてきて、そのなかの一つの太陽系ができ、我々の生きる多様性に満ちた地球が約45億年前に生まれてくる、約138億年の壮大な物語がこれらの物理の理論につまっているのだ。

※下図は、NASA: https://map.gsfc.nasa.gov/media/060915/index.html からダウンロードし貼り付けた。

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さて、このような理論物理は机上の空論で役に立たないのであろうか。いや物理学は私達が観測する宇宙・微小世界との整合を実証しながら発達してきた。だから、いろいろなことを原理として説明できるというだけではなく、見出した法則を使い技術として応用することができ、その恩恵を受けることができている。私たちが今当たり前のように利用しているエネルギー、工業製品、様々な輸送手段、通信インフラ、そしてバイオテクノロジーやAIといった最新技術まで、根っこをたどるとこれらの物理学・数学にたどり着くと言ってよい。そのあたりのことも、本書には要所要所でさらっと触れていて、私達がどれほどの恩恵を享受しているのか改めてわかることだろう。

個人的に印象に残った点としては、地震や火山噴火などの地球の躍動的な活動と、電弱統一理論とのつながりをふと見せてくれたところだ。

そういえば、私はこれらのことを学び研究しようと志し、大学に入ったはずだった。あまりに怠け者だったがために古典的な物理学でさえ身につけることができず、豆知識レベルしか得られなかった。そして第一線に進んでいった友人たちをうらやましく見て嫉妬心も覚えながらも、なんとか卒業したものの(*1)自分の進む道としてはあきらめ、ちょうどバブル期の最後でたまたま入社できた企業で会社人として生きることになったのだった。そんな私にとっては、本書は楽しく読んだものの、取り戻せない昔を少し思い出してしょっぱい気分になった。

それにしても、西欧の人にとってはどうしても、神 "GOD" を持ち出さずにはおれないのだろう。壮大な時間と空間のスケールの宇宙を考え、その必然的な未来を考えると、私達の人生など無に等しい。そんななかで自分の人生に意味を見出そうとすれば、このような宇宙の外に、宇宙を超越した大きな存在があると考える。それだから、それは時間も空間も超越する者でなければならない。そのような存在に私達が願う意味と意志があると考えざるを得ない。

いや、しかし、私達はそんな無にも等しい儚い存在であって、意味も意義もなく、私という意識だって単なる幻想なのかもしれない。それでもいいのではないだろうか。

私達はどこから来てどこに行くのだろうか。なぜ私達がここにいるのだろうか。超弦理論では様々な次元を持つ無数の宇宙があるはずだという。私達のいるこの宇宙が3次元空間と時間の4次元を持っているのは何故だろう。誰にもわからないのだ。「これが正論」「こんなことを言うやつは愚かだ」などと、小さい世界の中で争ったり、そんな争いを見聞きしてちょっと疲れているときには、宇宙を見上げ、このような本を読んで物理の世界を垣間見るのはよいと思う。

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さて、英語の勉強のための読書としてはちょっと反則かもしれない。よく知っていることをさらっと読むだけ。本当に一般大衆向けということだからだろう、英語も平易で、難しい単語や構文はなく紙の本の長さで215ページと短く、読みやすい。10日もかからずに読了してしまった。昔から好きな作家の探偵小説や馴染んだSF小説を読むのとあまり変わりはない。そういう意味では、もうちょっと専門色のある濃い中身か哲学的な考察かもう少し踏み込んだ何かが欲しかったように思う。


■注

(*1) 京都大学の理学部は卒業は簡単だった。実は入学も簡単だった。(たぶん今も同じだと思うが最近の事情は知らない)。授業や教科書を斜めに見てサボっていても遊んでいてもバイトに明け暮れていても音楽に耽溺していても、誰も何も干渉しない。が、それでは先の道に進むのは厳しい。思い知らされるのは大学院の入試だ。強制ではなくて自らの強い意志で素直な心で勉強をし疑問に対してあくなき探求を続けられる、そんな者のみが学問の道に入門できる。
卒業するだけなら簡単だ。私の場合、それは学問の道から追い出されただけだったのだ。

■関連note

三体の三部作の最終章 "Death's End" はついに翻訳版がこの5月に出版されるということだ。次元が圧縮される恐怖!!



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