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【WORKS】M HOUSE-4/増築の設計手法②

【プロジェクト概要】
築55年の壁式鉄筋コンクリート造住宅の増築と改修
用途:一戸建ての住宅
設計:鈴木隆介一級建築士事務所
竣工年:2023年
掲載:新建築住宅特集2023年5月号

前回の記事から引き続き、今回も増築の設計手法について、前回よりも具体的に説明をしていきます。
※前回の記事はこちら↓

01.周辺に開けていて閉じてもいる空間

計画地は裏道として利用されている交通量の多い幅狭の道路に面し、周辺には工場やアパートが建っているため、積極的に開くことができない周辺環境でした。

そのような環境下でも開放的な場所にすることができるように、周辺環境の状態を分析し、それに応じた増築部分を計画することで、周辺に開けていて同時に閉じてもいるという両義的な性質をもつ空間をつくることを目指しました。

計画地前面道路の様子

02.周辺の分析

周辺環境の状況は下記の通りでした。

(左)周辺配置図。(右上下)周辺断面図
  1. 西から東に向かって登っていく丘陵地。前面道路と計画地には約80cmの 高低差があり、計画地のほうが道路よりも高い。

  2. 計画地南西側には交差点がある。

  3. 南側に3階建てアパートが少し距離をとって(6~7mぐらい)建っていてる。アパートの外廊下が計画地側を向いている。

  4. 東側には隣家(住宅)が近接している。東側隣家敷地は計画地よりも60cmほど地面が高い。


このような周辺環境の状態に対しての計画案の方針が下記です。

①交差点上空に向かって開く
計画地南西側には交差点があります。
交差点という場所は、半永久的に建物などが建つ可能性が無い安定した都市空間と捉えることもできます。交差点側上空に向かった開かれた空間とすることで、安定した開放性(建物などで塞がれることのない)を確保します。

②ハイサイドライト(高窓)からの採光
南側はやや周辺建物が建て込んでいるため、ハイサイドライト(高窓)から採光が得られるようにします。

③高低差を活かし視線を防ぐ
敷地は丘陵地にあるため、周辺とは高低差があります。視線に配慮しなくてはならない、道路・隣家・アパートに対しては計画地との高低差を精密に調査し、必要な箇所からの視線を防ぐことができるようにしていきます。

上記の方針を満たす増築部分のあり方を設計していきました。


03.増築部の計画

前回の記事で僕は下記のように増築部分を考えたいと説明しました。

増築をすることが、既存棟のなかの閉塞性を改善するきっかけに繋げることができるようにしたいと考え、増築を「単純な増築小屋を建てる」のではなく「庭(外構)をつくるように増築部分を計画する」ように考えていきました。

これを簡単なスケッチで記したのが下記です。

単純な箱ではなく、塀や屋根、バルコニーなどのものが既存棟の南側を緩やかに覆っていて、ものの隙間から開放性や採光を確保し、ものが住空間を周辺から守る役割も果たす状態です。

設計案アクソメイメージ

上記は完成案の具体的な全体像です。
既存RC棟の南側を「バルコニー・高木・木塀・流れ屋根」といったものが覆うように計画しています。
全体としては、交差点側(南西側)に対して「疎」になっていて、南東側は「密」になっています。

外観写真
増築棟(DK)内より交差点側をみた写真。高い開放性

各部の寸法や形状は周辺環境に応じて決定しています。
木塀の高さは、前面道路との高低差で、道路側からは塀内への視線は切れるが、塀内からは外が見える高さに設定しています。


勾配屋根は8寸の急勾配から始まって、南の角に向かうにつれて頂部の高さは下がって、ハイサイドライトが大きくなり、緩やかな曲面で傾斜を変化させながら地面に近づいていき、東側の端点で地上1.6mまで下がる。これは、向かいの3階建てアパートの外廊下からリビングのサッシへの視線や、隣接する東側の隣家との位置関係から決定しています。


04.周辺環境から建築を考える

周辺環境に併せて形状が変化している屋根

デザインから考えられているような造形の増築部ですが、周辺環境に応答し、どこを開いてどこを閉じていくべきか繊細に見定めていって、その結果このような計画にまとまりました。

結果として生まれた住環境は、開放性とプライバシー性の両方を持ち、とても明るい空間だけれど日影になっているといった相反する性質を併せ持つ空間となりました。

【WORKS】MHOUSEの記事第四弾は以上です。ご覧いただきありがとうございました。

※過去記事はこちら↓

※M邸竣工写真はこちら↓(弊社HP)


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