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『人間の歴史』(Как человек стал великаном)


Как человек стал великаном


 児童向け『人間の歴史』(「Как человек стал великаном」)は、科学啓蒙的な読み物を得意とするミハイル・アンドレヴィッチ・イリーン(Михаил Ильин。イリン、イリインとも)と、妻のエレナ・セガール(Сегал。セガルとも)との共著。
 原文はロシア語なので私には読めないが、邦訳は岩波書店(袋一平訳)や慶應書房(八住利雄訳)から出ている。

地上には巨人がいます。
彼には、何の苦もなく機関車を持ち上げるような、そんな腕があります。
彼には、一日に数千キロも走ることが出来るような、そんな足があります。
彼には、どんな鳥よりもずっと高く、雲の上遥かに飛ぶことが出来るような、そんな翼があります。
彼には、どんな魚よりもずっと巧みに、水中を泳ぐことが出来るような、そんなひれがあります。
彼には、見えない物を見る目があり、別の大陸で話していることを聞く耳があります。
彼には、山を貫き、滾り落ちる滝を止める程の、そんな力があります。
彼は、自分の思いのままに、大地を作り直し、森林を育て、海と海を繋ぎ、砂漠を水で潤します。
この巨人とは、一体、何者でしょうか?
この巨人とは人間です。
この人間が巨人となり、地上の主人となったという、そんなことがどうして起こったのでしょうか?

イリーン&セガール『人間の歴史』

──なぜ、人間は巨人になれたのか?

この答えは、『人間の歴史』を読めば分かるのですが、フリードリッヒ・エンゲルス『猿が人間化するにあたっての労働の役割』(「Роль труда в процессе превращения обезьяны в человека」)やサミュエル・リリー『人類と機械の歴史』(「Men,Machines and History」)等の冒頭に簡潔に書かれているという。

「Роль труда в процессе превращения обезьяны в человека」

『猿が人間化するにあたっての労働の役割』は、英訳「The Part Played by Labour in the Transition from Ape to Man」なら読めるが、原典はロシア語で書かれているので、私には読めない。翻訳ソフトを使えば「ほぼ正確」な訳で読めるが、正確には、誰かの訳に頼らざるを得ない。

Труд – источник всякого богатства, утверждают политикоэкономы. Он действительно является таковым наряду с природой,доставляющей ему материал, который он превращает в богатство.Но он еще и нечто бесконечно большее, чем это.Он - первое основное условие всей человеческой жизни, ипритом в такой степени, что мы в известном смысле должнысказать: труд создал самого человека.

Labour is the source of all wealth, the political economists assert. And it
really is the source – next to nature, which supplies it with the material
that it converts into wealth. But it is even infinitely more than this. It is
the prime basic condition for all human existence, and this to such an
extent that, in a sense, we have to say that labour created man himself.

「労働はあらゆる富の源泉である」と経済学者たちは言っている。自然が労働に材料を提供し、労働がこれを富に変えるのであるが、その自然とならんで――労働は富の源泉である。しかしそれだけにとどまらず、労働はなお限りなくそれ以上のものである。「労働は人間生活全体の第一の基本条件であり、しかもある意味では、労働が人間そのものをも創造したのだ」と言わなければならないほどに基本的な条件なのである。
http://www.marx2016.com/04roudounoyakuwari01.html

フリードリッヒ・エンゲルス『猿が人間化するにあたっての労働の役割』

The earliest men we know of made and used tools. In fact, man as we know him probably could not have survived without tools — man is too weak and puny a creature to fight nature with only his hands and his teeth. The first men were of a species very different from our own. Perhaps they could have managed to live without tools. But only with the aid of the tools that these more primitive species learnt to use was it possible for the man of today to evolve, losing much in bodily strength and speed, but mote than compensating for this loss by developing a brain and hands and eyes that enabled him to call to his aid his many tools and machines that made him master of the world.

(現在知られている最も初期の人間は、道具を製作し、使用していた。実際、彼らが今日の人間のような人間だったら、多分、道具無しでは生き延びられなかったであろう。──人間は、手と歯のみで自然と闘うには非常に弱く、弱々しい生き物である。最初の人間は、今の人間とは大きく異なる種であった。多分、彼らは道具無しでも生き延びられたであろう。しかし、原始的な種が使い方を学んだ道具の助けがあったからこそ、今日の人間へと進化できたのである。身体的な力とスピードの多くを失うも、脳と手と目を発達させたことは、この損失の補って余りあるものであり、人間が多くの道具と機械を助けに呼ぶのに有効となり、人間を世界の支配者としたのである。)

【大意】ヒトの先祖は、現在のヒトとは異なり、もっと野生的で、体力も敏捷性もあり、道具を使わなくても、恐竜のように滅びることなく、サルのように、今日まで生き延びているであろう。ヒトは、道具や機械を使うことで筋力は失われたが、その見返りに、動物界の頂点に立てた。

リリー『人類と機械の歴史』

現在、「技術」は「科学」と結びついており、たとえば「ゆで卵の殻を早く剥く技術」については、「あなたが母親から教わったその技術は、科学的に・・・と説明できる」「科学的には、・・・という茹で方をすれば、早く剥けるはずだ」と、「技術とは、科学の生活への適用」とされるが、人類史という観点からみれば、「技術とは、労働手段の体系」だという。森にいたサルがヒトになれたのは、「労働」のおかげであり、その「労働」は「道具の製作」から始まったとする。(「技術」とは、より便利な「生活」に必要な「生活技術(テクニック)」なのか、より高収入を得る「労働」に必要な「生産技術(テクノロジー)」なのか。)

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ヒトの祖先は森にいた樹上性サルである。
森火事により平野に追い出された。
森の中では両手を上にあげて枝を掴んでいたので、二足歩行が可能。
両手が自由になったことにより、道具を使うことが可能。
枝を掴むために、親指が他の指の向かいにくるよう進化していたので、
道具をしっかと握ることができた。
次第に指が器用にになり、見事な道具を作れるようになった。
指を動かす脳の部分は、舌をも動かす。
指が器用になるにつれ、舌の動きも複雑になり、複雑な言葉も話せる。
言葉により共同作業が可能になり、文字により記録が可能に。
ヒトは強力な牙も、爪も、角も持たない弱い動物である。
しかし、道具、言葉、共同作業、そして、火の使用により、巨人に!

──ヒトは、何をもってヒトとなり得るのか?
──ヒトは、サルなどの他の動物と、どこが違うのか?

 スウェーデンの生物学者リンネは、ヒトを「Homo sapiens(ホモ・サピエンス,、知性人)と呼んだ(『自然の体系』1735)。ヒトは、他の動物より脳が大きく、知性を持つということであろう。これに対し、フランスの哲学者ベルクソンは、ヒトを「Homo faber(ホモ・ファーベル、工作人)と呼んだ(『創造的進化』1907)。

人類を規定するのに、歴史時代および先史時代を通じて人間と知性の不変の特徴とみなされるものにのみ厳密に限るならば、おそらく我々は、「ホモ・サピエンス(知性人)」とは言わないで、「ホモ・ファーベル(工作人)」と言うであろう。要するに、知性とは、その根原的な歩みと思われる点から考察するならば、人為的な物を作る能力、特に道具を作るための道具を作る能力であり、またかかる製作を無限に変化させる能力である。

ベルクソン『創造的進化』

 ヒト以外にも道具を使う動物はいる。たとえば、石で貝を割るラッコ、石でダチョウの卵を割るエジプトハゲワシ、・・・共通点は「食べ物を得るために道具を使う」であり、「道具の二次製作」(道具で道具を作ること)をする動物はヒトのみだという。

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