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医師の勉強録;前澤さんはどうだったのか。宇宙酔いについて。

宇宙酔いや体液シフトは宇宙空間到着後1-2wで問題になります。宇宙酔いは突然の嘔吐があること、宇宙飛行士の5-7割が発症すること、なども特徴となります。今後の宇宙市場拡大に伴いさらに重要となってきます。

前澤さんも宇宙酔いを、、、。

自動車、電車、飛行機、船。
我々人間は様々な乗り物に乗り、移動しています。
そして、乗ることで生じる弊害の1つ
「乗り物酔い」。
前澤さんが宇宙へ行かれましたが、宇宙酔いをした
との発言があったようです!?。
宇宙船であっても例外ではありません。
やや事情は異なりますが。
今回は「宇宙酔い」について説明していきます。

宇宙飛行における生理学的な変化について

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NPJ Microgravity . 2016 Dec 1;2:16031.
Space Physiology and Medicine. Lea and Febiger: Philadelphia, PA, (1988).

1-2wの宇宙飛行では(前澤さんもこれに該当します)、
宇宙酔いや体液シフトが問題となります。
これらは早期で改善します。
一方、骨やカルシウム代謝、宇宙放射線などは
滞在期間が長期になる程顕在化してきます。

前庭神経系とバランス

人の平衡バランスを構成している要素は
①内耳前庭入力系:三半規管、耳石
②視覚入力
③体性感覚入力:食圧覚、筋紡錘
④高次脳機能、辺縁系
⑤反射中枢:脳幹、小脳
⑥筋力

の6つが主に協調して働いています。
では、どのように働いているか。
①〜③は反射中枢の⑤脳幹と小脳を経由し、④と統合され、
最終的に⑥筋力へ出力されます。
加えて、眼球運動、姿勢制御系、自律神経系、心臓血管系
なども関与します。

前庭系の解剖

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https://www.tyojyu.or.jp/kankoubutsu/gyoseki/frailty-yobo-taisaku/R2-3-6.html

内耳には前庭と呼ばれる平衡覚を司る器官があります。
前庭が重力や身体の回転速度や動きなどを感じ取り、
身体のバランスを保つ役割を果たします。
平衡感覚は前庭だけでなく、前述のように視覚や体性感覚(深部感覚)
などからの情報もかかわっており、平衡覚の認識に関与しています。

宇宙酔いとは

下記の特性があると言われています。
⓪5-7割程度の宇宙飛行士に生じているとされる(程度の差はある)
①微小重力環境に入ったら早期に発症する。
数時間から数日でおさまることが多い。
②固定座席など身体を動かさない場合は生じにくい。
③突然の嘔吐が多い。
④地上の動揺症よりも発症しやすい。飛行回数を重ねると発症減る。
車酔いや船酔いと似ていますが、違いもあります。
加えて、「最適応症候群」という、宇宙から地上に戻る際に
生じるものもある。

なぜ宇宙酔いが起こるか

いまだに解明されていないが仮説を順を追って説明します。
①感覚混乱説:視覚入力、内耳前庭入力、体性感覚入力のバランスが重力によって崩れる
②体液シフト説:体内の水分が全体的に頭側へいく
③耳石由来:左右差、再解釈由来
④位相非同期仮説:動作プログラムが再起動
上記4つの説が考えられており、相互に関与し合っている可能性もあります。また、全く別の仮説が正しい場合もあります。

宇宙酔いの対策と展望

完全な治療法はありません。
NASAでは抗ヒスタミン薬、抗コリン薬、アンフェタミンなど
が使用されています。
打ち上げ前にはVRや弾道飛行訓練なども行われています。

ISSのその先と宇宙酔い

前述のように病態は不明で、根本的な予防薬や治療薬はありません。
今後月面や火星を目指す場合、「再突入症候群」
がより問題になる可能性が高いです。
なぜなら、地上と異なりゆっくりとしたトレーニング
はできない環境であり、かつ直ぐに任務をする必要があるからです。
そのための解決手段として、
人工重力や宇宙酔いの病態解明による治療薬の開発行われています。
今後宇宙へ向かっていく人類にとって非常に重要な課題となりそうです。

【参考資料】
Equilibrium Res Vol. 68(3) 149~153,2009
Jpn J Rehabil Med voL. 46 Ne.12 2009
宇宙航空医学入門 単行本 – 2015/11/1 緒方克彦 (著), 藤田真敬 (著)

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