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「ウェンズデー」全8話視聴

原則、ネタバレは無し。
しかし、念のため注目を。

 ネットフリックスドラマ「ウェンズデー」を視聴した。
 これに伴って、2023年には河出文庫から出版されている『アダムス・ファミリー全集』を買い、今年最初に観た映画は、実写版「アダムス・ファミリー」「アダムス・ファミリー2」の二作。
 それくらい、世界観に興味を覚えたコンテンツだったりする。

 原作の一コマ漫画における「アダムス・ファミリー」と言えば、多くの人間が気味悪く感じたり、嫌なものだったりするモノを、むしろ愛でたり喜ぶ一族としてしられている。
 
 このような表現では、オススメできるものも伝わらないのが残念だが。日本でいうところの、水木しげるの妖怪たちに近い。
 一般に狐狸妖怪の類は忌避されるが、水木しげるの妖怪たちは、非常に好奇心をそそられる、我々の隣人として登場。
 彼らが暴力的な能力を発揮するのは、たとえば土地開発であったり、人間の都合で環境を変化させることがきっかけだったりする。

 アダムス・ファミリーは、非常に一族を思いやる心の強いのが一コマなのに丹念に描かれている。作中には幽霊も存在するほか、信頼できる従者・ラーチは、フランケンシュタインの怪物の如き容姿をもっている。その正体については定かではないが。

 先日、全話観終えた「ウェンズデー」は、アダムス一家の長女・ウェンズデーを主人公としている。
 本作は言わば、ダークでシリアス、サイコな「ハリー・ポッター」的ストーリー。
 彼女が生徒の一員となったネヴァーモア学園は、吸血鬼や人狼など、「のけ者」(※作中での表現)たちが集まる。にもかかわらず、ウェンズデーの強烈な個性は、そこでも孤立を招く。
 そこでの殺人事件の謎ときを主題に、彼女の学園生活を描く物語。既にseason2の制作も決定。

 社会的価値観から外れているのは、時として羨望の目を持たれる。そこに反感を覚えずにすむには、その主が高貴さをも体現しているかどうかにかかわると僕は思う。
 具体例はドラキュラ伯爵。吸血鬼好きという個人的贔屓を別にしても、ドラキュラが、卑劣・外道としてまさしく中世の信仰のように、今日蔑まれず、人気のある悪役たるのは、伯爵としての立ち居振る舞いに圧倒されるから。

 ウェンズデーもまた、周囲に嫌われ、かつ警戒される。それを彼女の価値観上は、まったく意に介さない。時にはそれを望む。
 だが、彼女が単なる反抗者ではなく、独自の思想に基づく在り方を貫いているのだと感じさせられるのは、美学として徹底しているからだろう。
 
 すなわち、単なるサイコパスでトラブルメーカーな属性キャラではなく、他でもないウェンズデーとしての性格キャラクターを感じさせる言動や衣装、調度品へのこだわりに、人は彼女に注目してしまう。

 日本文化において、いわゆる闇にあたる、もうひとつの精神面を知りたければ陰陽師らの実態に迫る必要がある。妖怪という現象を、史料から読解するのは容易ではない。無論、陰陽師もだが。
 けれども、彼らは実在し、また一定以上の効果があったとされていればこそ、彼らが見出し、日本文化に定着した「鬼」という概念についても、陰陽道の儀式である節分が今なお存続している。

 「ウェンズデー」や「アダムス・ファミリー」は、チャールズ・アダムスが1937年から雑誌『ザ・ニューヨーカー』に投稿していた頃から始まる、極めて現代的な作品ではあるが、一方で、西洋社会の「闇」の信仰を巧みに織り交ぜている。 

 イギリス等には「マザーグース」と呼ばれる民謡がある。よく知られているので言えば「London Bridge Is Broken Down」などか。
 マザーグースのひとつに、「Monday’s Child」という曲がある。
 水曜日という意味の「ウェンズデー」という名は、他でもなく、この一節をふまえて名付けられているのだ。

Monday’s child is fair of face,
Tuesday’s child is full of grace;
Wednesday’s child is full of woe,(水曜日生まれの子は、悲哀に満ちている)
Thursday’s child has far to go;
Friday’s child is loving and giving,
Saturday’s child works hard for its living;
But the child that is born on the Sabbath day
Is bonny and blithe, and good and gay.

「Monday’s Child」

 思うに、ひとつの事柄から、どれほどの文化的背景を引き出せるかが、このコンテンツ溢れる現代社会で、より自分のためになるのではなかろうか。僕が倍速視聴を行わないのもまた、この信条に基づく。

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