カタストロフィズムと「ヤンデレ」
進化論としての青春
ヤンデレという言葉は、病的な愛情表現やその状態を指す。
一般的にも、恋愛を自覚する者は「恋の病」を患っているが、ヤンデレはその症状が異なっている（と認識されている）。
人が恋をするとき、「春が来た」や「青春」と表現することもある。季節の「春」を示す言葉であったが、それが転じて、生涯において若く元気な時代、すなわち青年時代を指す言葉として用いられるようになった。
これは、古代中国における陰陽五行思想で、「春」は「青（緑）」が、「夏」は「朱（赤）」、「秋」は「白」、「冬」は「玄（黒）」に当てられ、それぞれ「青春」、「朱夏」、「白秋」、「玄冬」と言い表すことにならってのこと。
前提として私が述べておきたいこととして、「病的でない（ヤンデレではない）」恋愛は、自我が確立しだす青年期とわが国における旧来の結婚観の影響で、進化論的であると考えられるのだ。
しかしその一方で、ヤンデレはその世間の常識・通念という自然法則から逸脱する行為・状況である。
そのことを、進化論に対して、「天変地異説」として、ここでは考えてゆきたい。
カタストロフィズムとは
簡潔に述べると、これは地球上の生物群はカタストロフ的な大変動による絶滅、発生の繰り返しによって変遷してきたとする説のことだ。激変説とも、破局主義とも呼ばれる。順を追って解説してゆく。
そもそもカタストロフィとは、「倒す」を意味するギリシア語のkatastrophēに由来し、一般に「悲劇的結末」、「破局」と訳される。
「前1200年のカタストロフ」という表現もあるがこれは、地中海東部を席巻した大規模な社会変動のことで、この社会変動の後、当時、ヒッタイトのみが所有していた鉄器の生産技術が地中海東部の各地や西アジアに広がることにより青銅器時代は終焉を迎え、鉄器時代が始まったことを表している。
終末における救済
ここで私が論じたいのは、この説の正否ではなく、ヤンデレという在り方・現象を説明するものとして有用なのではなかろうか、というもの。
すなわち、主人公の理想を離れた、不運的な、あるいはどうやってもヤンデレの思惑へと繋がってしまう超自然的な恋愛模様が大変動であり、その結果として、進化論的に人類が繰り返してきた恋愛観とは一線を画すものがもたらされる。
それは見ようによってはバッドエンド（悲劇的結末）であるが、ヤンデレ側や、ヤンデレの強烈な自我によって自由意思という名の固定観念が喪失した主人公側にしてみれば、願いが成就したために、それはハッピーエンドなのである。
このように、視点によって結末への解釈が変わる物語形式を「Open-end」もしくは「メリーバッドエンド」と呼ぶ。
さて、願いが成就したヤンデレは、「二人だけの世界」へと進むこととなる。当事者ではない者からすればそれは「病的な愛の世界」であり、「非社会的」である。
この部分はより抽象的で恐縮だが、終末論を参考にしたい。
ヤンデレの「二人だけの世界」は、まさしく「楽園/パラダイス/天国」である。キリスト教の終末論には神学において様々な説があるが、代表的なものの一つを紹介しよう。
キリストが空中に再臨し、キリスト教徒を空中にひきあげ、その後大きな困難が地上を襲う（＝患難時代）。
患難期の最後にハルマゲドンの戦いが起こり、そのときキリストは地上に再臨し、サタンと地獄へ行くべき人間を滅ぼし、地上に神が直接統治する王国を建国する（千年王国）。千年が終わった後に新しい天と地（天国）が始まる。
ヤンデレが「強烈な自我」と評して問題ないと思われるのは、好きなこと・恋愛に病的なまでに忠実な点だけではない。
ストーカーやメンヘラが異物的に主人公の日常に介入し不快感を高めるのに対し、ヤンデレは精神的（印象操作）・肉体的（監禁）に主人公とヤンデレ以外、排除してゆく点だ。
多くの物事に対し、排除するか否かを問う作業には、自身の決断に圧倒的な価値を置いておく必要がある。
十字軍遠征や宗教改革の闘争が示しているように、自身の信仰に対する存在としての異教徒が設定される。
終末論が救済たりうるのは、世間においてはびこっている異教徒も、やがては滅亡し、数年・数百年と弾圧や妨害を受けてきた信徒が、千年以上も神が統治する国で安寧を得るからだ。
この点において、ヤンデレは「王」や「司祭」ではなく「預言者」であって、秩序を定める刑法家ではなく将来あるべき秩序をうたう革命家なのである。
（革命についてはここでも考察している）
さいごに
ここで考察してみたのは、つまるところヤンデレが「病的」とされる愛情表現の構造である。このような要素があるために、ヤンデレコンテンツに需要があるのではなかろうか。
なお、2022年におけるヤンデレの興亡についての予測も投稿しているので、良ければ参考にしていただきたい。
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