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ヤンデレという記号の現在

 まず最初に重要な、ヤンデレの現状を紹介すると、今日、ヤンデレというキャラ属性は、主として男性キャラに付与されているということだ。
 言い換えれば、女性によって消費されることが多くなっているのである。なお、BLとしてではなく、女性主人公に対して、ヤンデレ男性が求愛する、というものだ。
 
 女性キャラは今や「ヤンデレヒロイン」として確立されたものではなく、「ヤンデレ顔(目のハイライトが消えた表情)」という形で、ひとつの側面、主人公にみせる魅力となっている。
 個々の作品は追っていないが、試みに丸善・ジュンク堂書店の在庫アプリ「honto」でヤンデレと検索してみると、ライトノベル、漫画のいずれも、女性向けレーベルが多くヒットする。

 某出版社の新レーベル第一回目の作品として、ヤンデレが扱われているくらいだ。出版前に云々するのは差し控えるが。

 男性向けが日常をベースとした恋愛ものであるのに対して、女性向けにみられる、ヤンデレ男性の多くが、貴族や社長といった、社会的地位が高く、かつ主人公(女性)よりも高位である場合が大半を占めていることに気づかされる。

 従来の「俺様系」や「ねこ系」、あるいは「わんこ系」男性キャラとの恋愛模様において、ヤンデレという表現が扱われていると言えるだろう。
 かつて僕は、ヤンデレヒロインを近代における「ファム・ファタール」と関連付けて、その理解を深めてみようとしたが、ある意味では、男性ヤンデレキャラにおいても、主人公である女性を翻弄するキャラとして、一応の類似が認められるのではないかと考えている。

 では、男性向けコンテンツにおいて、もはやヤンデレ(ヒロイン)のみを享受することはできなくなったのか。商業作品ではなるほど、衰退気味にマイナー市場であるわけだが、一方で同人市場では、未だヤンデレと冠した作品は少なからずみられる。

 特に現在、顕著なのは「ASMR」や「シチュエーションボイス」コンテンツである。この点については、noteなどでも既に触れているため、詳しくは述べない。

 さて、これらは何を意味しているのだろうか。

 まず考えられるのは、よりファム・ファタールとしての側面を強めている点である。
 女性向け文芸は言うまでもなく、男性向け音声作品は、マイナーな趣味であり、センシティブな内容・イメージも少なくないことから、大きな声では言いがたいだろう。ここに、19世紀の紳士階級における「魔性の女」ブームを当てはめたくなる。

 その魔性性が、狂気・暴力から、甘美・センシティブな方向へとシフトしつつある。もはや、いわゆる黎明期にあたる諸作品とは異なり、暴力的なあり方を示す事は稀となっていくだろう。
 そういったものは、リスカや薬物イメージと共にメンヘラへと分化されていったからだ。
 このように、時代風潮に合わせて、ヤンデレというキャラもまた、市場がこたえ、消費されてゆく。


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