趣味のデータ分析027_近くて遠い国③_なぜ2010年代は「国際関係深化の時代」だったのか?
026では、日本から見た経済距離、人的距離の時系列推移を確認した(経済距離、人的距離の定義については024)。今回は、この時系列変化が何故起きたのか、具体的には、(026で確認したとおり)2010年代は総じて経済距離、人的距離が縮まっていたが、その理由は何か、という観点で分析していく。
どのように要因分解するか
まず最初に、何の理由を、どのように分析するかを確認しよう。分析対象は026の図3、4の変化だ。ただし以前はアジア、その他と分けて経済距離と人的距離を分けたが、都合により今回は全体を経済距離、人的距離の2つに分けて、図1、2として再掲しておく。導出式は「2019年の経済(人的)距離/2010年の経済(人的)距離 - 1」である。数字自体は変わっていない。
ここで、経済距離は分子は財・サービスの輸出+輸入で、分母は日本のGDPで算出した(いずれもドル建て)。また人的距離の方は、分子は日本からその国に行った人+その国から日本に来た人、分母は日本の総人口で算出した(数式的には下記。今更だけど、分子分母は最後に逆数を取る「前」の部分を指す。超わかりにくくてスマン)。
$$
経済距離_{ij} = \left(\dfrac{(輸出額_{ij} + 輸入額_{ij})}{GDP_i}\right)^{-1} \\
人的距離_{ij} = \left(\dfrac{(出国者数_{ij} + 入国者数_{ij})}{総人口_i}\right)^{-1}
$$
つまり、要因についてもそれぞれこれら3つに分解できる。
ただここで一点厄介なのは、分子分母で要因が分かれており、各要因をきれいに分離分解することは出来ない。今回は、もともとの2019年の「距離」を基準に、「各構成要素を1つだけ2010年のものに変えた場合、全部2019年の場合に比べ「距離」がどれくらい変わるか」を、各要因の影響度と定義する。正確には、上記の「距離」の変化幅を、2019年の「距離」で正規化する。
さて、文章で書いてもわかりにくいので、数式で表そう。
$$
t = \{ 2010, 2019 \} \\
経済距離_{t} = \left(\dfrac{(輸出額_{t} + 輸入額_{t})}{GDP_t}\right)^{-1}\\
人的距離_{t} = \left(\dfrac{(出国者数_{t} + 入国者数_{t})}{総人口_t}\right)^{-1}\\
として、\\
輸出額変化の影響 = \dfrac{\left(\dfrac{(輸出額_{2010} + 輸入額_{2019})}{GDP_{2019}}\right)^{-1} - 経済距離_{2019}} {経済距離_{2019}} \\
輸入額変化の影響 = \dfrac{\left(\dfrac{(輸出額_{2019} + 輸入額_{2010})}{GDP_2019}\right)^{-1} - 経済距離_{2019}} {経済距離_{2019}}\\
GDP変化の影響 = \dfrac{\left(\dfrac{(輸出額_{2019} + 輸入額_{2019})}{GDP_{2010}}\right)^{-1} - 経済距離_{2019}} {経済距離_{2019}} \\
出国者数変化の影響 = \dfrac{\left(\dfrac{(出国者数_{2010} + 入国者数_{2019})}{総人口_{2019}}\right)^{-1} - 人的距離_{2019}} {人的距離_{2019}} \\
入国者数変化の影響 = \dfrac{\left(\dfrac{(出国者数_{2019} + 入国者数_{2010})}{総人口_{2019}}\right)^{-1} - 人的距離_{2019}} {人的距離_{2019}} \\
総人口数変化の影響 = \dfrac{\left(\dfrac{(出国者数_{2019} + 入国者数_{2019})}{総人口_{2010}}\right)^{-1} - 人的距離_{2019}} {人的距離_{2019}} \\
$$
…わかりにくいな。まあともかく、これが数式上の定義なので、これを図示していく。
なお、この指標で、異なる国ごとの影響の差を比較することは出来ない。また、その値の絶対水準そのものにも意味は無い。あくまで「各国ごとに、各要因がどれくらいの影響があるか」を定量化するための試みとしてもらいたい。またこの影響度を合算等しても、なにか意味ある数字にはならない。というか、こういう分子と分母の両方に要因がある場合の寄与度分析って、どういうふうに計算するのが一番キレイなのかなぁ。
更にいうと、数式を見ればわかるが、「GDP変化の影響」と「総人口数変化の影響」は、実はどの国でも同じ値(日本の2019年のGDP(総人口)を日本の2010年のGDP(総人口)で割った値)になる。というわけで、数式上は示したが、影響度のグラフ化としては輸出/輸入、出国/入国の2つずつで示したいと思う。
なぜ国際関係を深化できたか?
では早速、経済距離から見ていこう。
青が(他国から日本への)輸入、赤が(日本から他国への)輸出による影響で、緑は2010年と2019年を比較した際の変化率(図1と同じ)である。
気づきの点は結構多い。まず、アジアからの輸入が増えているのは予想通りだが、案外輸出の影響が小さい国が多いのは気になる。輸出の影響がマイナスの国は、アジア10カ国中5カ国もある。距離が最も縮まったベトナムにせよ、影響は輸入のほうが遥かに大きい。輸出のほうが影響が大きいのはアジアでインドのみである。日系企業の進出による逆輸入的なものかもしれず、つまり東南アジアの経済成長を取り込んでいるといえるのかもしれないが、端的に日本のプレゼンスが下がっているだけな気もする。
ともかく、アジアとの経済距離が縮まったのは、「太宗は日本への輸入が増えたから」のようだ。
次に欧米等地域を見ると、全体的にアジアよりバランスがいい感じ。輸入が伸びた国のほうが多いのは同じだが、英米は輸出のほうが伸びているし、輸入がマイナスに行ってしまっているのもブラジルだけだ。欧米等地域との経済距離が縮まったのは、「日本への輸入の貢献が比較的大きいが、日本からの輸出による貢献もある」といえるだろう。
さて、次は人的距離だ。グラフは下記。
人的距離も、青(他国から日本への入国者)の増加が相対的に影響が強そうだ(2018年には、日本への外国人観光客が、3000万人を超えたことからも分かっていたけど)。でも(データ欠損のフランスを除く)全ての国で青がマイナス=入国者数が増えている、というのは結構すごい気がする。アジアだけでなくヨーロッパでも、青が赤の数倍の伸び(減少)を示しており、日本への観光客増加が世界的な減少であることが伺われる。
赤(日本から他国への出国者)も概ね増えているが、中国だけプラスに聞いている(=出国者が減っている)のはご愛嬌。赤>青となっているのはベトナムとスペイン。このあたりは観光客推移として深掘りしてみるのも面白いかもしれない。特にスペインは、赤が青の数倍あり、結構な人気具合。どういう理由なんだろうね。スペインいい国だけど。
ともかく、人的距離が縮まった理由については、総じて「外国から日本への入国者が増加した影響が大きい」といえるだろう。
まとめ
経済距離、人的距離は2010年から2019年にかけ、概ね縮まっていた。そしてその理由としては、経済距離については概ね「他国からの輸入が増えたから」、人的距離については「他国からの入国者が増えたから」といえる。ただ経済距離については、アジアとその他地域でやや異なり、その他地域は、輸出も輸入と同程度の影響を有しているといえる。
人的距離が縮まったということは、素直に日本への旅行人気が高まったといえると思うが、経済距離については微妙かもしれない。特にアジア地域へは、各地域から日本への輸入の影響が大きく、輸出はむしろ金額ベースで減少している所も多い。現地生産が増えて、わざわざ日本から輸出する必要が減っただけかもしれないが、「輸出立国日本」とはやや異なったイメージが浮かび上がったように思う。
更に一歩踏み込んで叙述的な評価をすると、この10年で、日本と各国との経済距離、人的距離が縮まったのは、「日本から世界に近づいていった」のではなく、「世界が日本に近づいてくれた」という受動的な表現が正しいと感じる。コロナも挟んで状況は大きく変わってしまったけど、今後の10年でも「日本から世界に近づいていく」事が到底できるとは思わないので、次の十年では、もしかして、あまり距離が縮まらない…どころか、距離が離れてしまう可能もあるかもね。
さて、次回はちょっと毛色を変えて、海外から日本に来る人達がどういう人達なのか(図4の青の部分をさらに深掘りするイメージ)でやってみる。
補足・データの作り方等
データソース自体に補足事項はないのだが、一点重要な変更は、024、026のデータでは、経済距離について、円ベースの国際収支統計を、日銀ソースでドルに直し、ドルベースの各国GDP(IMFソース)で割返していた。この計算法だと、経済距離の要因分解に為替要因を加えるべき…なのだが、ややこしいうえ、「各国GDP」といっても、今回の分析で使用するのは、日本のGDPのみである。ということで、今回はIMFデータの方を現地通貨建てにして、為替の影響を完全に消した。IMFの為替と日銀ソースの為替変換は誤差1%以下なので、グラフへの影響は実質存在しない。
まあ、026からそうしとけよという話ではあったな。あるいは最初から、日銀ソースの変換ではなく、IMFのドル建て/現地通貨建ての比率から為替変換するべきだったかも。
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