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趣味のデータ分析026_近くて遠い国②_アジアはどれほど近くなったか

024で、経済距離と人的距離を定義し、コロナ前の2017年ー2019年平均で各国の距離がどれほどのものか、つまり色んな国の日本との「距離」を定量化して示した。
今回は、その「距離」の時間的変化を確認する。

距離の時系列変化

まず「距離」の定義について再掲しておこう。

$$
経済距離_{ij} = \left(\dfrac{(輸出額_{ij} + 輸入額_{ij})}{GDP_i}\right)^{-1} \\

人的距離_{ij} = \left(\dfrac{(出国者数_{ij} + 入国者数_{ij})}{総人口_i}\right)^{-1} 
$$

経済距離の分子は日銀の国際収支統計から、財とサービスの両方の合算を使用し、人的距離の分子は出入国統計JNTOの統計から作成している。観光目的かビジネス目的化などは区分していない。分母は人口、GDPのいずれもIMFのWEOから取得している。
これらのデータは、時系列でほぼ一貫したデータが取れるので、2010年から2019年までの各国の推移を見てみよう。2020年以降はコロナの断絶があり、特に出国者数のデータが取れないので示していない。また以降のデータはすべて日本側から見たデータ、つまり i = 日本で計算したものである。

図1:アジア各国の日本から見た経済距離、人的距離の2010~2019年の推移
(出所:国際収支統計、出入国管理統計、JNTO、IMF)

まずはアジア各国。縦横対数軸の平滑化散布図で示したが、矢印をきちんと入れるとかなり分かりにくくなったので、ざっくりした矢印だけだが、基本的に「距離」が短くなるように(左下側に)推移している。
特徴としては、ベトナムがかなり内側に食い込んでいるが、それ以外は「距離」の順位を覆すほどの変化はあまりないことが挙げられる。インドネシアとマレーシアが若干団子気味で、ベトナムに経済距離を追い抜かれる形になっている程度である。ただそもそもこの2カ国だけは、経済距離が遠ざかっているので、そもそも例外気味ではある。2010年時点で近い国も遠い国も、概ね同様に近づいており、他の国以上に距離を縮めた国は、ベトナム程度しか見られない。
もう一つは、これもベトナムは経済距離(横軸)で大きく内側に食い込んだが、それ以外はどちらかというと人的距離(縦軸)で内側に食い込んでいるように見えることがある。正確にはもう少し踏み込んで分析する必要があるが、少なくとも2010年以降のアジアと日本の関係は、経済関係以上に人的交流で深化しているように思う。

次はその他欧米等。

図2:アジア以外各国の日本から見た経済距離、人的距離の2010~2019年の推移
(出所:国際収支統計、出入国管理統計、JNTO、IMF)

欧米はもうちょっとわかりにくい。まず、順位に変動があまりないというのはアジアと同様だが(オーストラリアとドイツがやや団子)、そもそもの動きが相対的に小さそうに見える。大きめの動きは、イギリスとロシアの経済距離くらいか(前者は近づき、後者は遠のいているという違いはある)。
また縦横の動きを比べると、相対的に経済距離(横軸)での動きが大きいように見える。

距離の2時点間比較・2010vs2019

これまでで、時系列で「距離」の順位が大きく変化した感じはしないこと、また変化は全体的にアジアのほうが大きいというのはうかがえる。ただ平滑線散布図では、ちょっと細かい動きが見にくかったので、2010年と2019年の2時点で、「距離」がどう変わったのか、別の形で比較してみよう。
具体的には、2019年の経済距離(人的距離)を分子に、2010年のものを分母にして、1を引いて各国並べてみた(つまり変化率を取った)。0未満なら距離が縮まり、0以上なら距離が広がっているということになる。では、アジア各国から見てみよう。

図3:アジア各国の日本から見た経済距離、人的距離の2010~2019年の変化率
(出所:国際収支統計、出入国管理統計、JNTO、IMF)

経済距離、人的距離ともに縮まっているが(図3赤線、緑線)、図1で見たとおり、やはり人的距離のほうが変化率が大きい。経済距離変化率の平均は0.9だが、人的距離変化率の平均は0.47と、半分以下にまで縮まっている(まあこの水準感自体に意味は無いけど)。
経済距離では、韓国、タイ、インドネシア、マレーシアがむしろ遠ざかる形になった。特定時点の影響もあるし要因分析はちょっと難しいが、日本経済にとって、これらの国との貿易は、相対的に重要性が下がっている可能性がある。特にインドネシアとマレーシアは、もともと距離が近かったわけでないのに更に遠ざかってしまったので、関係性構築の観点では留意が必要かもしれない。
一方で、こうした国でも人的距離は総じて半分程度、つまりお互いの人の行き来が倍程度になっている。こちらも要因分析は一旦措くが、「モノ・サービスのやり取りが必ずしも深化せずに、人的交流のみが深化する」という場合があるというのは、個人的に興味深い。異なる国がいかに関係を深化するか、という事象の複雑さを示しているような気がする。

図4:アジア以外各国の日本から見た経済距離、人的距離の2010~2019年の変化率
(出所:国際収支統計、出入国管理統計、JNTO、IMF)

欧米諸国を見ると、こちらも経済距離・人的距離両方が縮まっていた。というか、経済距離が遠ざかったのはブラジルとロシアだけで、平均は0.79。アジアに比べてむしろより近づいている。人的距離は、2019年のデータが欠損しているフランスとかいうならず者国家があるが、それを除くと0.63。図2で指摘したとおり、相対的に経済距離の変化は大きいが、人的距離も、(アジアに比べるとやや見劣りはするが、)十分近づいているといえるのではないだろうか。
また、ブラジル、ロシアの経済距離は遠ざかっているが、その「遠ざかり方」はマレーシア、インドネシアのそれよりもマシである。マレーシアとインドネシアがなぜそんなに遠ざかってしまったのか、ちょっと気になるところだ。

まとめ

主要国との経済距離、人的距離が、2010年以降の10年でどう変化したかをざっと確認してきた。確認できたことは下記2点。
総体としては、経済距離、人的距離ともに縮まった国が多い。経済距離はアジアより欧米のほうが短縮率が高く、アジアは経済距離が遠ざかった国もぼちぼちある。一方人的距離はアジアのほうが欧米より短縮率が高い。また今回調査国の全てで、人的距離は短縮傾向にある。
②①の変化は、「距離」の順位を変えるほどの変化ではない。「距離」が大きく縮まった国は限られている。

少なくとも日本にとって、2010年代は世界中の様々な国との交流が、経済的にも人的にも密になった時期であり、国際関係深化の華の時代だったのかもしれない。
コロナでこうした接続、特に人的交流は大きく傷ついてしまったが、ようやくコロナの影響も収束に向かい、外国人に対しても門戸を開くようになってきた。一旦傷ついた交流がどの程度、どのようなスピードで回復できるのか、まだまだ分からないが、早く元通りになって、そして更に関係深化が進めばいいなと思う。

珍しくちょっと真面目にまとめた。次回はできれば要因分析をする。

補足・データの作り方等

作っているデータは時系列にしただけで、データの作り方は024と完全に同じである。
一点補足すると、フランスの2019年、カナダの2014年にデータの欠損があるということくらいか。いずれもJTNOのデータの方に欠損がある。当局データまで遡ってはいないので、詳細は不明。グラフ上は、図2では単に欠損、図4ではフランスのみ影響が出るが、見ての通り純粋に欠損させている。

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