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趣味のデータ分析011_猫おばさん仮説④_案外ペットは高くない

これまで3回、猫おばさん仮説を検証してきた。その中で、

  • 単身世帯では中年女性、特に経営者や自営業の女性が圧倒的にペットにお金をかけていること、

  • また二人以上世帯でも、既婚世帯というよりむしろ、いわゆる子供部屋おばさんのペット飼育率が高いこと、

  • 特に40代以上の子供部屋おばさんの猫飼育率が極めて高いこと

ということが判明した。ただこれまで家計調査とかペットフード協会のデータやら、全く異なるデータソースで色々グラフを示してきたし、論点も若干拡散していたので、そのへんのデータを一旦整理したい。

ペット関係支出データの妥当性の検証

まずはこれまで確認したデータを並べておこう。一つは家計調査。008、009で見た通り、性別年代別世帯構造別の、ペット関係の平均消費支出がわかる。ただしこれは、ペットを飼っていない人も含んだ消費支出である。
次に、ペット関係消費支出のデータは、家庭どうぶつ白書全国犬猫飼育実態調査から取得できることを009で確認した。これは、実際にペットを飼育している人が、ペット関係にいくら支出しているか、のデータである。そしてペット飼育率は、前回「動物愛護に関する世論調査」「全国犬猫飼育実態調査」から取得できた。

これら3つの数字には、下記の関係が成立するはずである。
家計調査データ(全家庭の平均ペット関係支出) = 家庭どうぶつ白書データ(ペット飼育家庭のペット関係支出) * ペット飼育率
各データが整合的なら、実際の数字を代入しても、概ね上記の関係が成立しているはずだ。もし成立していないなら、どれかの数字が過大/過少ということになる。

どう検証するかだが、「ペット飼育家庭のペット関係支出」は世帯構造ごとのデータが無いので、世帯構造ごとに、家計調査データを飼育割合で割返して、世帯ごとのペット飼育家庭のペット関係支出を算出し、それを家庭どうぶつ白書全国犬猫飼育実態調査の全体の数字(以下、「白書等の数字」)と比較する形で、各数字の水準感の妥当性を検証しよう。
かなりわかりにくくなってしまったが、図1が比較まで示した図である。

図1:ペット関係平均消費額の推計と比較

青棒が犬猫の飼育率(単純合算)、赤折れ線が非飼育者も含む平均ペット関連支出(家計調査データ)で、赤折れ線を青棒で割返すことで、飼育者のみの平均ペット関連支出を導出した。それが緑折れ線である。
そして、点線は家庭どうぶつ白書や全国犬猫飼育実態調査で示されている「飼育者のみの平均ペット関連支出」である。

そもそも家庭どうぶつ白書や全国犬猫飼育実態調査の水準にだいぶ差があるが、低い方の全国犬猫飼育実態調査の数字も、家計調査等から推計した「飼育者のみの平均ペット関連支出」よりなお高い。理論上は、各ソースの犬猫の水準の間に入るはずだが、猫と同じかそれより下くらいになっている。
まあ白書等の数字は一律なので、そもそも水準が低い単身男性が猫より更に低いのはまあいいが、その分女性や二人以上世帯は高水準になっていて欲しいところ、残念ながらそうはなっていない。なぜか。

アネクドータルな仮説しか検討できないが、まず家庭どうぶつ白書は、以前述べた通り、アニコムというペット保険を提供している会社による資料である。つまり、この調査はペット保険への加入者のみを対象にしている。そしてペット保険なるものは、日本で12.2%しか加入していないらしい。
きちんとしたソースを示せないが、ペット保険加入者のペット関係支出が、非加入者より高いことは想定できる。実際、009でも少し触れたとおり、犬飼育者のペット関係消費額は総額30万円程度であるが、うちペット保険は3~5万円を占める。決して小さくはない。
犬猫飼育実態調査の方は、まだ家計調査からの推計に近いが…もうこっちはよく分からん。直感的には、犬猫飼育実態調査の水準感の妥当性が高い気がしていて、家計調査の水準のほうが低すぎる感じがするが、分からん。
まとめると、(ペット保険に入っていない人も含む)ペットを飼っている人の、年間のペット関連平均支出額は、10万弱~犬で17万、猫で11万くらい。保険等までしっかり入っている人だと倍くらいまでコストを掛けている、ということだろうか。ちょっと断言しにくい。

猫おばさんの人生に占める猫の割合

さて、実際の飼育者のペット関連消費支出について、どの値を採用すべきか微妙な感じだが、一旦無視して、同様の分析を単身男女の詳細に拡張しよう。

図2:単身男女の年代別ペット関係消費額の推計

もともと全体平均でも水準が高い40-50代女性の支出が、やはり高くなっている。この層は犬より猫の飼育率が高いくらいなので、高いのは高いので違和感がないわけでもないが、ただそれでもせいぜい犬猫飼育実態調査の水準である。
また、この方法で推計した場合、ペットに金をかけているのは男性も同様で、40-50代女性の次は、40-50代及び60-70代男性である。つまり、男性はペット飼育率が低いため、全体平均でのペット関連支出額が低く出ているが、ペット飼育者の間での男女別・年代別の支出額はそこまで差がない可能性が高いと推察される。
※なお図2と次の図3では、「20-30代」は、家計調査のデータでは20-34歳、犬猫飼育実態調査では20-30代のデータを用いている。40-50代についても同様。
※男性20-30代の数字が極端に低いことなどを踏まえると、飼育率のデータが高すぎるか、ペット関連支出の全体平均が低すぎるかどちらかの問題がある可能性は残っている。

では最後に、「ペットを飼育している」単身男女の、消費支出に占めるペット関連消費の割合を見てみたい。

図3:単身男女の年代別ペット関係消費額が消費支出に占める割合

大体図2と同じような動き(当然だが)。最も消費水準の高い40-50代の女性でも、全消費支出に占める割合は10%程度である。決して少なくはないが、持続不可能な水準でもない気がする。
子供ができたりしたら削らないといけない水準かもしれないが、別にパートナーの了解を得られないということもないだろうし、そもそも単身で好きに使えるなら、十分趣味の領域の消費額な気がする。
猫おばさんの人生にとって、猫は極めて重要なんだと思うが、金銭的に占める割合は案外大きくないのではないかと思う。
※全消費支出は、税金や保険料以外のほぼすべての支出(財/サービスの対価)を指す。データ上は、大体手取り収入の5~7割位と思ってもらえばよい。ちなみになぜ手取り収入等を使用しないかというと、家計調査は特に単身世帯の収入をあまり調査していないからだ。非勤労世帯を含めたデータは、多分存在しない。

まとめ

今回はこれまで見てきた、ペット飼育関連消費額やペットの飼育率等を総合し、データに矛盾がないか確認してきた。結果、一部断言は難しいが、
・犬猫を飼育している人のペット関連消費額としては、犬猫飼育実態調査のデータのほうが信憑性が高そう。家庭どうぶつ白書の水準は、保険料などかなり丁寧に犬猫飼育にコストを掛けている人の水準であると思われる。
ペット飼育者のペット関連消費額について、男女別・年代別の差は、全体平均に比して大きくない。ただし、家計調査の全体平均自体が若干低い可能性等には留意。絶対水準は
・家計調査での単身男女のペット関連消費額が、消費支出に占める割合は高くない。つまり、金銭的な負担はそこまで重いわけではない
ということが判明した。これまで見てきたデータがすべて無矛盾というわけではないが、金額の絶対水準以外はそこまで問題ないんじゃないかと思うし、絶対水準のズレも大体納得できる水準だと思う。

長かったが、猫おばさんたちの飼育費、飼育実態とここまで明らかにしてきた。残る数回で、猫おばさん層はなぜペットを飼うのか、猫おばさんは実際に婚期が遅いのか、という論点について、心理面も含めて確認していきたい。


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