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趣味のデータ分析010_猫おばさん仮説③_動物のいる生活

前回、前々回と、「猫おばさん仮説」を検証していて、ここまでで「35~59歳の女性で、単身で、経営者や自営業の方が、特にペットにお金をかけている」ということがわかった。今回はある意味前提的な部分、そもそも世帯属性別に、どれくらいペットを飼っているのかというところを確認しておこう。
消費額が高いんだからいっぱい飼ってるんだろう、と思うかもしれないが、前回まで使用した家計調査は、あくまで平均消費額のデータ。ごく一部のペット飼育者が、めっちゃ消費している可能性もある。この可能性を検証する。

ペットのいる生活

さて、「世帯属性別のペット飼育率」ってすごく単純なデータなようだが、実はあまり良いデータが無い。公的データとしては2010年の、内閣府の「動物愛護に関する世論調査」くらいだろうか。古い上にウェイトバックすらかけていない計2,000人程度へのアンケートなので、率直に言ってあまり参考にならないが、確認だけはしておこう。ちなみに質問は「お宅ではペットを飼っていますか」というもの。「お宅」って、まだ現役の言葉なのかしら。
まず、性別年代別のデータは図1の通り。

図1:ペット飼育率(性別年代別)

平均では約30%強が何らか動物を飼育しており、50代が一番高い。20代が比較的に高いのは、親と同居している人が多いのも関係しているのではないかと思う。また、男女で大した差はなさそうだ。
次に職業別もある(性別年代別のクロスはない)ので、こちらも見ておこう(もっと詳細な職種は取れるが、割愛した)。

図2:ペット飼育率(職種別)

図2では、自営業が比較的高いが、雇用者とめちゃくちゃ差がある感じでもない。性別年代別のデータと合わせると、「35~59歳の単身経営者の女性が、ペットにお金をかけている」ということ自体とは矛盾しないが、前回まで見てきたほどの圧倒的な差はなさそうに見える。

もっと最近のデータは、日本ペットフード協会の「全国犬猫飼育実態調査」から取得できる。現在公表されているのは原則2021年のデータのみ(ただし公表概要から一部時系列も得られる)で、基本的に犬猫にフィーチャーした分析だが、世帯構造などの細分化もできる。順番に見ていこう。まずは図3の犬猫を飼っている世帯だ(どこまで違いが出るかよくわからないが、設問の関係上、世帯ではなく個人で聞いている)。

図3:犬猫を飼育している世帯の割合

犬が10%を超えるくらいで、趨勢的に減少、猫は9%弱あたりで安定的に推移している。犬猫を飼育している世帯は若干減少傾向にあるらしい。そして、犬猫飼育を単純合算してもせいぜい20%程度で、図1の30%強より10%くらい低い。「動物愛護に関する世論調査」が2010年のデータで時間軸がずれていると言っても、この差は小さくない。
この謎を解き明かすために、2021年度だけであるが、同じく「全国犬猫飼育実態調査」で、今なにか動物を飼っていますか、という調査もあるので、これを見てみよう。ちょっとわかりにくいが、年代別で飼育している動物の詳細のデータが図4である。

図4:ペットを飼育している者の割合

せっかくなので調査可能なペット全種類で積み上げてみた。実際には、一人で複数種の動物を飼っている人がいるので、積み上げた約35%の人がペットを飼育しているわけではなく、白マーカーの30%弱くらいが真のペット飼育率である。この数字は図1とあまり変わらない感じ。良かった。ただし、世代ごとに飼育率にすごく差があるという感じはしない。図1では、20代の飼育率が高くて、30代で一旦下がり、そこから50代にかけ飼育率がまた上昇していたが、そういった傾向はイマイチ見られない。ただまあ、致命的な齟齬というわけでもないとは思う。

話は逸れるが、図4によれば、少なくとも全世帯の10%程度(図1と図3で指摘した乖離の10%)は、犬猫以外の動物を飼育しているというのは、個人的に興味深い。「ペットを飼育している人の中で」各動物を飼育している確率をせっかくなので出してみた。全部列挙すると複雑なので、動物の種類を丸めたグラフが図5。

図5:ペット飼育者のうち各動物を飼育している割合

見方としては、「ペットを飼っている人のうち、40%は犬を、35%を猫を飼っている」という形になる。70代の魚類は大体メダカである。メダカって結構希少種らしいね今。あと両生類はどの世代もだいたいカメ。カメって両生類の中でもそこまで飼いやすい印象はないのだが、リクガメか?縁日のミドリガメ(ミシシッピアカミミガメ)とかの影響?輸入禁止だけど。
エキゾチックアニマルは若い人ほど多いが、それでも魚類のほうが倍近く多く、ペット飼育者の25%は魚類の飼育者というのはやや驚きである。ハムスターとかフェレットよりメダカや熱帯魚のほうが多いらしい。まあ、散歩とか全然いらないし、インテリア感覚で飼育しているのだろうか。そして爬虫類の圧倒的な人気の無さよ。。。。

ともかく見るべきは、ペット飼育者の中で年代別で見ても、飼育動物に顕著な偏りはなさそうだ、という点。図1では年代別に差はありそうだったが、図4ではそこまででもないし、いずれにしても前回見たような、「35~59歳の女性で、単身で、経営者や自営業の方が、特にペットにお金をかけている」という可能性は、これらの図からは浮かび上がってこない

やっぱり独身女性は猫を飼っている

と、ここまでウダウダ書いてきたが、そろそろ決定的なデータを出そう。性別世帯属性別の犬猫の飼育率である。「全国犬猫飼育実態調査」から取得可能なデータで、これを見れば、もっと直接的に猫おばさん仮説の検証ができる。結論は図6。

図6:単身者の年代別犬猫飼育率

棒が多くて見にくいのだが、単身の40~50代女性の猫飼育率が明らかに高い。それ以外の層も、比較的女性が高い。単身女性が単身男性に比べペットを飼育している割合が高いのは間違いないと言える。
ただ勘のいい人なら気づくと思うが、二人以上世帯ならもっとペットを飼っている。そしてその点、このデータは非常に面白い区分けが有る。

図7:性別世帯属性別の犬猫飼育率

二人以上世帯は、単身女性に比べても犬猫飼育率は高いが、その中でも未婚親同居女性、すなわち子供部屋おばさんが最も高い。特に既婚家族に比べても、子供部屋おばさんの猫飼育率はかなり高い。さらに「未婚または単身女性」に絞って、年代別にデータを見たのが図8である。

図8:未婚女性の犬猫飼育率

これでも二人以上(未婚親同居)の方が概して飼育率が高いが、分布は全く違う。犬は親同居の特に20-30代が多いが、猫は40-50代が多い。さらに、単身40-50代は20-30代、60-70代の親同居と同じレベルの飼育率である。やはり「猫おばさん」であって「犬おばさん」ではないのだろうか。
職業別ではデータが取れないので、前回提示した、猫おばさん経営者説に関しては依然はっきりしないが、図6~8は、猫おばさん仮説を強く補強しそうなデータの一つと言えるだろう。

なお余談だが、子供部屋おじさん・子供部屋おばさんのデータは公的データではあまり存在しない。国立社会保障・人口問題研究所の出生動向基本調査が一番正確な調査だと思われ、これはこれでこどおじたちの人生観とかが読み取れるのでいつかまた分析したいデータなのだが、これは主たる対象は35歳くらいまでである)。ほか、いわゆる家計調査や家計構造調査のデータでは、子供部屋おじさんおばさんのデータが分かる仕分けがあまりなく、単身者または既婚・子持ち夫婦の動態に着目した感じの調査が多い(気がする)。いわゆる核家族というテーマは統計においても未だ大原則のようだ。

まとめ

ちょっと長くなってしまったので、今回はここまで。わかったことを整理しよう。
まずは、日本人は平均して30%くらいの人がペットを飼っている。犬猫が20%、他の動物が10%くらいと思われる。ちなみに犬猫がツートップだが、次点は魚類。エキゾチックアニマルを飼育している人は案外少ない。年代別に飼育率に違いがあるかは明確ではないが、高齢になるほど飼育率が高くなる傾向があるようだ。
そして単身世帯と二人以上世帯では、二人以上世帯のほうが飼育率が高い。さらに、単身世帯にせよ二人以上世帯にせよ、男性と女性では概して女性の飼育率のほうが高い最も飼育率が高いのは「親同居の独身女性」である。既婚または/及び子ありの方は、性別での飼育率の差はあまりないが、親同居の独身男性と女性は飼育率に明らかな差があるのは興味深い。

今回の分析で、猫おばさん仮説における、「猫おばさん層は実際に猫をたくさん飼っている」という論点は正しそうな感触は得られた。彼女たちのレイヤーは、ごく一部がペットに多額の消費を行っているのではなく、広い層で飼育の実態がある(故に平均消費額も高くなる)と思われる。また今回、「親同居の独身成人男女」の動態についてわかったのは僥倖だった。ただし、経営者云々については、今回のデータセットではよく分からない。

次回は一旦、今回判明したペット飼育率と、前回、前々回に確認した、単身女性等のペット飼育への消費額との突合を行っていこう。今はちょっと論点が拡散してしまっているので、今回推察できたペット飼育率とペット飼育に関する消費の2つをきちんと検証、統合することで、「広い層で飼育の実態がある(故に平均消費額も高くなる)」という点を確認しておきたい。それが終わったら、最後に猫おばさんたちの心理状態について、可能な範囲で推察を行っていく。


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