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【I T時代の現代哲学】スティグレール(1)

今回、取り上げるのは、フランスの哲学者、ベルナール・スティグレール(1952ー)です。

彼は、技術、メディアに関する哲学の世界的スターで、IT時代の哲学者として注目されています。

彼の対談を元にした著作「偶有からの哲学」(新評社、2009年初版)を読みながら、技術に関する哲学を学んでいきたいと思います。

テーマは、メディアによる「意識の時間」の搾取、です。

今回は、考察のための準備にあたる、第1章から第3章までを読んでいきます。

人間は技術の動物である

人間には、他の動物と大きな違いがあります。

それは、生存のために人工物を使用する、という点です(p23)。

その点で、ヒトは、他の生物と断絶しており、ヒトは、生物の新たなタイプです。それまで生物の身体に属していた生存と捕食の条件が、技術という形で、突如生物の外に移行したのです。これを、技術的外在化といいます(p 60)。

技術と記憶

生物には、2つの記憶があります。

種の記憶個体の記憶、DNAの記憶と中枢神経の記憶です。

ところが、ヒトは、動物にはない、第3の記憶を持っています。

それが、技術による記憶です。(p64)

原始時代においても、打製石器の作り方は、打製石器そのものを観察することで、伝達可能になりました。生物の歴史においてはじめて、各個体が獲得した知を生物的ではない手段で伝達することが可能になりました。個体の経験を世代間で直接伝達させることは動物界にはゆるされないことであり、だから動物には文化も精神もありません(p64)。

人類の進化の中で、技術は、打製石器のような原始的な技術から、記憶を伝達するのに特化した技術を生み出すまでに進化します。

このような技術が記憶技術です(p78)。

代表的なものは、アルファベットです(p82)。

アルファベットで作られた文章を読むことで、私たちは他者の思索において生起したことにアクセスすることが可能になりました(p83)。

しかし、この記憶技術は、現代に及んで、さらに重大な発展を遂げます。

視聴覚メディアです。

視聴覚メディアは、時間的対象(音楽など、時間の流れに沿って再生され、鑑賞されるもの)を反復することを可能にします(p107)。

映画や音楽プレーヤーなどは、時間的な対象を物質に落とし込むことを可能にしました。

では、この視聴覚メディアは、どのような点で重大なのでしょうか?

それは、人間の意識と関係するからです。

技術と意識

人間の意識は、絶えず流れ去ります。

一つの状態に留めておくことはできません。

そして、意識は、流れるものであるという性質を持っている以上、必ず時間性を持ちます(p99)。この点で、意識と時間的な対象との間には強い相似性があります。

さて、視聴覚メディアという記憶技術は、時間的な対象を物質に落とし込むことを可能にしました。

その結果、時間的な対象を産業的に複製できるようになったのです。

ここに、文化産業が生まれます。

「映画、音楽、ラジオ、テレビを通じて、こうしたオーディオヴィジュアルな時間的対象の流布とともにー時間的対象は進行する際、時間的対象が差し向けられている人びとの意識に、いまや観客聴衆と呼ばれる意識のマスを形成するものとしての意識の時間の流れにピタリと寄り添いますー産業は意識の時間の流れを、コントロールはできないまでも、少なくとも条件付けできるようになります。」(p110)

つまり、メディアは、意識の本質である流れ、時間性を通じて、意識そのものを産業的にコントロールする可能性を手にしました。

「われわれは時間的対象と近しく一体化するあまり、時間的対象がわれわれの意識本来の時間性に取ってかわるわけです。文化産業による時間的対象の力の破壊的な利用とは、このようなものです。」(p112ー113)

その結果起きる現象が、意識のシンクロニゼーションです。

意識は、自由な流れにしたがって思索する時間を失い、同期化、シンクロにゼーションされてしまうのです(p126)。

まとめ

以上が、第1章から第3章までの大意です。

人間の本質は、外部の技術を利用するということにありました。その結果、技術は進化し、ついに、時間的対象を物質化できるにまで到りました。意識は時間的なものなので、産業は、時間的対象を大量生産することで、各人の意識をコントロールする可能性を獲得してしまいました。

様々なものを技術に頼らざるを得ないという人間の弱さが、全てのスタート地点でした。

産業側としては、この弱さにつけ込んで人間の意識をコントロールし、消費を促すことが重要になります。そのためには、時間性を持ったメディアの利用がもっとも効果的だということが分かります。

一方、消費者側としては、この弱さを自覚して、無自覚のうちに全ての時間を奪われて、自分らしさを失い、喪失感に陥ってしまわないように、心構えをしておく必要があります。

次回は、現代における技術と意識の問題について、詳しく述べている第4章(p130ー)を読んでいきたいと思います。

お読みいただきありがとうございました。







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