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春琴抄

日暮れてくるころの部屋は、
放課後の図書館みたいで好きだ。

レースのカーテン越しなのが惜しく、ハンドル式のスライド窓を開け放ち、ジャッジャッとカーテンも全開にしたのは朝のこと。

黒猫が横切り
窓の番をする恒例。


風がゆるりとレースをひいて、半開きのカーテンはやがて影を、色気を、床に敷く。

筆慣れをしておくことを、そしてともすれば浮き足だち気味な(陽気に誘われ)心持ちを、サラサラと絵筆に整わせてゆく。

細く入り、太くしてスーッと力を抜く。

先端へ細かく気をあつめ、

大胆に淡く肉付けてゆく。

床に散らばったまま、書捨てた和紙は、窓よりの陽が妙に味付けて、粋に見え悦に浸る。

こんな日は、
暮れきるまで明かりはともさない。

「春琴抄」
の頁を、西陽に対し、

鶯の名声に思いはせ

回転椅子の回りを苦にしつつ。

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