②情報収集過程について

はじめに
 システムズアプローチでは、来談者と家族といった家族システムに合流しながら、これからの面接の基本となる情報を集める必要があります。この時、面接者は、家族システムを外部から観察する立場に置きながらも、実際には自らも家族システムに関わりながら内側から観察しているという治療システムの中の関与者の立場に置かれます。
 こうした実践を、吉川(2013)は、“システムズアプローチは、外部観察という視点に立ちながらも、実践における視点を内部観察に置くという二重性と矛盾を孕んだ臨床実践である。”と述べています。そして、東(2018)は“セラピストは、「家族システム」を観察すると同時に「治療システム」を観察しなければなりません。”と解説しており、この二重の観察を「複眼的観察」と呼んでいます。
 また、こうしたシステムも実際に存在するものではなく、あくまでセラピストの頭の中で関係の繋がりをひとつのまとまりであるシステムとして見立ているに過ぎません。良くも悪くもセラピストの頭の中にあるシステムという〈ものの見方〉も仮説のひつとであり、システムの範囲をどう捉えるかは、セラピストが任意で決められてしまう(それが真実だと思い込んでしまう)ことは注意する必要があります。

情報収集とは
 システムズアプローチで必要な情報は、どんな状況で、何が起きて、結果どうなって、それをそれぞれがどのように意味づけ(枠組みづけ)をしているのか、ということになります。この時に気をつけたいのは、観察可能な具体的な行動の連鎖(相互作用やパターン)を骨組みに、それぞれの枠組みを肉づけしていくことだといえます。ですから、まずはどんな状況・場面設定(コンテクスト)で、具体的に何が起きたのか(相互作用やパターン)という情報を集める必要があるのです。
 私たちの日頃のコミュニケーションでは、感情表現や要望、原因や理由、といった様々な個々の視点から切り取った枠組みを使ってやりとりをしています。ですから、はじめから具体的に何が起きたかをわかりやすく説明しようとする人の方が珍しいです。しかも、問題とされる出来事の渦中にいるとしたら尚更それを説明するのは困難で混乱していても当たり前といえます。ですから、セラピストは情報を分類・整理しながら、必要な情報を再構成し、実際に何が起きたかを把握していく必要があります。

必要な情報
 システムズアプローチで必要な情報を端的にいうならば、コンテクスト(どんな状況で)と相互作用やパターン(何が起きたか)になるといえます。
 相互作用やパターンは、ある状況で家族がどのように働くのかといったシステムの機能的側面に関する情報になります。
 来談者と家族が置かれたそれぞれの立場や役割、家族の位置関係(ジェノグラム、距離が近い遠い、遊離・隔離している、家族システム内の夫婦や同朋などのサブシステム)、家族に対して外部から影響を与える人や集団、といったシステムの構造的側面に関する情報になります。
 そして、家族のライフサイクル(親の介護と子どもの進学に関するトラブルなど個人のライフサイクルが重なる)や時間経緯に伴う変化(家族内や職場での立場・役割の変化、子どもの自己決定、子育ての終わり、夫婦間の関係性の変化)、多世代のジェノグラムといったシステムの発達的側面に関する情報になります。
 実践では、こうした情報を集めながら、実際の出来事のつながりに近づけるように情報を分類・整理し、再構成していきます。
 吉川(2001)は、情報を言語による報告によって行われる「記述的情報(聞き取る相互作用)」、視覚から観察可能な「観察による情報(見える相互作用)」、面接場面で起こることから類推される「メタファー」の3つに分けています(図を参照、図は吉川,2001より引用)。


 個人面接では「記述的情報(聞き取る相互作用)」の比重が多くなり、複数面接では「観察による相互作用(見える相互作用)」と「メタファー」の比重が多くなります。特に来談者が本人でない場合は、セラピストと来談者がともに枠組みを通してのやりとりになりがちで、枠組みと実際に起きた出来事を混同しないように留意する必要があります。
 また、吉川(1997)では、“初回面接は、治療システムに合流する前の家族システムを観察できる貴重な場面である。この観察から「基本情報」を、面接の継続ごとに「追加情報」を情報収集しながら「変更情報」を集めていく。”と述べています。そして、変化についての情報である「変更情報」を、偶発的に起きた変化なのか、それとも面接の影響による変化なのか来談者と家族の意図による変化なのかを把握していく必要もあります。
 セラピストは、初回面接から得られた「基本情報」を基に、「追加情報」を収集しながら、面接の経過にともない起こった変化である「変更情報」を集めながら、情報収集を行なっていきます。

枠組みと事象を分ける
 中野(2017)は、情報収集過程で、枠組みと事象(観察可能な具体的な行動の連鎖)を区別し、来談者と家族の訴えを「実際に誰と誰が何をしてどうなったか」に翻訳しながら聞いていくことがポイントだと述べています。
 例えるなら、右眼でどんな状況・場面設定で、何が起きたかという相互作用やパターンを観察し、左眼で、それを個々の視点がどのように意味づけしているかという枠組みを観察するといえるかもしれません。この右眼と左眼を使った翻訳をしている時に、必ず事象レベルの行動の連鎖を骨組みにして、そこにそれぞれの枠組みを肉づけしていくことは忘れていけないことになります(枠組み階層図の作成もこの通りです)。まずは観察可能な具体的な行動の連鎖から、人間関係のコミュニケーション読み解いていくといえます。
 こうした異なるやり方で二重に記述していくことは、そこから差異が生まれ、それ自体が新しい情報になると考えられます。こうしたことはベイトソンの二重記述ともいえるかもしれません。

実践での方法
 実際の面接では、言語的な聞き取る相互作用では、東(1993)の「それからどうした法(いわゆる円環的質問法)」を使って、「〇〇の前には何があったんですか?」「それで、〇〇の後には?」「〇〇の後に◇◇が起きてどうなったんですか?」と順番に出来事を聞いていくことが情報収集の初級の方法としてあげられます。
 中級の方法としてはセラピストが頭の中で出来事を分類・整理しながら情報を再構成していく方法があります。この時にセラピストは、自身の不安から情報収集に夢中になり過ぎると情報過多になったり、肝心な情報が抜けてしまったりといった失敗をしやすいので、まずは来談者と家族が語ることをひとつひとつ理解して、「〇〇っていうのは〜という理解でよいでしょうか?」とその理解を共有していくことが重要になります。この時に間違った理解をしたとしても、それがわかったこと自体が理解(ベイトソン曰く、情報とは差異である)を生むと考えらばよいと言えます。
 上級の情報収集として、セラピストが主体的に必要な情報に関する話題や場面設定にしばりをかけて話題を制限していく方法があります(中野,2017)。そためには、セラピスト自身が過不足な情報を把握し、必要な情報を来談者と家族が語ってくれるような質問の投げかけ方を考えなくてはなりません(ある意味でセラピストの質問はセラピスト自身の理解の限界を示していると考えられます)。このときセラピストは、「しばり」をかけた質問をしながら、来談者と家族が話すことを状況・場面設定(コンテクスト)に照らし合わせながら、ひとつひとつ具体的に理解していくことが大切になります。
 その時に「より詳しい状況を理解したいので、〇〇って話題で話しをさせてください」「今のお話を〇〇ってふうに理解したんですけど、よろしいですか」「〇〇っていうのはどういうことですか」と、セラピストがなんとなく分かったつもりにならず、来談者と家族が語ることを具体的に把握していく必要があります。
 また、類似する状況・場面設定(コンテクスト)で起こる相互作用やパターンから、セラピストが仮説として推測していくという方法もあります。例えば、セラピストが子どもがどのように自己主張するのかという相互作用やパターンを把握したい時に、学校という状況・場面設定(コンテクスト)では来談者と家族が語ってくれない(語れない)場合には、家族内の自己主張、家族以外の人に対する自己主張、過去の自己主張、例外的な出来事などの状況・場面設定からどのように子どもが反応するのか推測していくことができます。この時あくまで推測であることに留意してください。
 また、複数面接では来談したメンバー同士のやりとりを面前で観察することで、見れる相互作用やメタファーといった情報を集めることができます。セラピストがメンバー同士のやりとりを促し実際に演じてもらう方法を「今ここで法(いわゆるエナクメント)」と呼んでいます(東,1993)。複数面接では、話している人だけでなく、話を聞いている人の反応や、それを観察しているセラピストがどう観察されているかという非言語の振る舞いが非常に重要になります(頷きや相槌、目線や座る位置などもメッセージとなります)。この時、セラピストは周辺視野を使って面接場面全体の動きを観察することが必要となります。

おわりに
 簡単ですが、以上がシステムズアプローチの情報収集過程になります。こうした過程はもちろんジョイニング過程から繋がっていて、仮説設定過程に向けて進んでいきます。システムズアプローチでは、複数の人を相手にしたり、同時に異なる作業を行う必要がありますが、学習や訓練を始めた時には、何か介入をしようとか、いきなり同時に全てやろうと意気込むのではなく、ひとつひとつの作業をまずは確実に出来る様になることが大切だといえます。ひとつひとつの作業が身につけば、意識することなく作業を進められて、同時に異なる作業を行うことが出来るようになります。

引用文献
高橋規子・吉川悟(2013)高橋規子論文集 ナラティヴ・プラクティス─セラピストとして能く生きるということ,遠見書房.
中野真也・吉川悟(2017)システムズアプローチ入門ー人間関係を扱うアプローチのコミュニケーションの読み解き方,ナカニシ出版.
東豊(1993)セラピスト入門ーシステムズアプローチへの招待,日本評論社.
東豊(2018)漫画でわかる家族療法2ー大人のカウンセリング編,日本評論社.
吉川悟(1993)家族療法ーシステムズアプローチの〈ものの見方〉,ミネルヴァ書房.
吉川悟(2001)言葉になりきらない相互作用を見立てるために,家族療法研究,第18巻第2号,金剛出版.
吉川悟(2012)システムズアプローチにおける下地作り過程 : 介入プロセスにおける文脈構成,龍谷大学論集 (479) 34-56.

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