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読書感想文:「シルエット」/島本理生

島本理生の「シルエット」を読んだ。
読むまで島本理生という作家の事を知らなくて、なんだかひどく申し訳ない気分になった。
年齢も4つくらい上なだけでほぼ同年代だし、多作でたくさんの賞を獲られている作家なのに、今の今まで知らずに来たことが恥ずかしい。
そう思うくらい、好きな作風だったのだ。

「シルエット」は女子高生が過去の恋愛と現在の恋愛の中で揺らぎ、次に進ままでを描いた青春小説である。
女性ならではの観点で描かれた恋の衝動やセックスの価値観が青臭さを覚えるくらい瑞々しくて、31歳の男性としては眩しさとかこっ恥ずかしさを感じるくらいだったけれど、それがとても良かった。リビドーに苛まれている青年時代に読んでいたらきっと感想が違っただろうし。
そんな、ヘタするとケータイ小説のような安っぽさを帯びてしまいがちなストーリーを、島本理生は紛れもなく文学に昇華させていた。

「シルエット」における彼女の最大の特徴は『比喩表現の豊かさ』に見られると思う。時にはストーリーよりもその喩えの上手さに心が惹きつけられて何度もそのセンテンスだけを読む、ということまでさせられた。
とにかく、美しいと感じた。小説が始まる最初の数行を読んだだけで一気に世界観に入れることが出来たくらい。

色々あって紹介しきれないけれど、ひとつだけ。
そこの文章がやけに琴線に触れまくった。

冬のある日、たこ焼きとアイスを小脇に抱えて恋人と公園に入るシーン。
そんな幸せの中にいるにもかかわらず、『死骸』というワードを頭に浮かべているところに惹きつけられた。そしてその表現の綺麗さ。感性の美しさ。
そうか、「冬」という季節に匂いがあるのか。
秋といえば金木犀の香りが云々だとか、夏といえば熱せられたアスファルトに降り注いだ夕立が蒸発する匂い、だとか。
そういう具体的なアイテムを使わずに冬を表現しているところが素晴らしいと思った。

読み終わってから知ったのだけど、この「シルエット」は17歳のときの作品なのだそう。そういうの知ると、自分の17歳の頃と比べてしまいますよね。
いやぁ、ほんとうにすごい。

少し話が逸れるけど、十代の頃に何か残しておきたかったな、と思うことがある。僕は曲を作るから「次の曲は、僕が17歳の頃に作った曲です」なんて言ってみたかったな。まともに人前で歌えるようなのは20歳の頃のものしか無いや…。

ということで。
なんでも、2018年の直木賞を獲得されているそうなので、そちらも是非読んでみたい。処女作の次に最新作読むとどうなるか、楽しみです。笑

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