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まだはじまったばかり。(AKG/「ホームタウン」によせて)

アジカン先生の新作と、ホルモンの新作と、星野源の新作をずっとリピートして聴いている毎日である。

今回はまずアジカン先生。
前作(といっても3年半も前だけど)の「Wonder Future」がそこまでハマれなくて、うーん、なんだかなぁと思っていたところ、届いたのがこの「ホームタウン」というアルバム。
これがもう素晴らしくて。久しぶりにアジカン先生のアルバムをリピートして聴く、という幸せに浸ってる。
一曲目の「クロックワーク」が「暗号のカイト」や「十二進法の夕景」なんかを彷彿とさせるミディアムテンポのギターロックで、いきなりギュッと心を掴まれる。
ゴッチ日記に書かれている曲解説によると、メロディはほとんどWEEZERのリヴァース・クオモ氏からもらったデモ音源そのままだそう。確かにそう聞くとWEEZERっぽさを感じる。そもそもアジカン自体がWEEZERの影響を強く受けているバンドだし、今回のアルバムもパワーポップ寄りな作品であるから、違和感とかそういうのはなく、きちんとアジカンのものになっているのが面白いな、と感じた。

表題曲の「ホームタウン」を経て、「レインボーフラッグ」がまた小気味いい。ギターワークスがいいんですよね、アジカンって。
メロディとかまさにアジカン。アジカンっていうか、ゴッチ。のっぺりとしたお経みたいな音階かと思いきや、流れで聴くとすごくメロディック。覚えやすいメロディと口ずさみたくなる言葉。テンポが(というかビートが)変わってからの展開もすごく好き。こういうのに弱い。やられた〜と思った。

そして「サーカス」。これが良い感じの毒というか引っかかりみたいなものになってて最高。皮肉たっぷりの歌詞も良いし、ギターソロがなんとなくblurのグレアム・コクソンのそれを彷彿とさせて、かっこいい。ブリットポップ感がある。こういうねちっこいとこあるよね、ブリットポップって。

シングル曲「荒野を歩け」を経て、「UCLA」。この「UCLA」からの流れもまた最高。「クロックワーク」が朝焼けなら「荒野を歩け」が夕焼けで、「UCLA」からは夜になっていくイメージ。
で、大好きなのに気づかなかったけど、女性ボーカルにホームカミングスの畳野彩加さんが参加している。ホムカミの楽曲よりもキーが少し高いからかな。ホムカミで聴く声より、より女性的に聴こえたな。ほんとに良いボーカルだと思う。彼女の声は日本語詞を歌うべきだな、とか改めて思った。
「UCLA」はアジカン史に残る名曲じゃないかと思う。コーラスパートでテンポが倍になる構成もめちゃくちゃかっこいいし、どこかポエトリーリーディングのように聴こえるヴァースパートとか、アジカンがこれまで積み上げてきた"アジカンらしさ"みたいなのがふんだんに取り入れられてるように感じた。いい曲書くなぁとしみじみ。

ここからは、さっきの例えで行くと夜を駆けていく感じ。「モータープール」、「ダンシングガール」、「さようならソルジャー」。全部、めっちゃメロが良い。こんなに良くていいんですかというくらい出し惜しみのなさ。それぞれ割と近いテンポ(BPM)なのに、被らないのも凄いな。曲のことを思い出した時に一緒くたにならず、それぞれの色があって、将棋でいうと金と銀と角と飛車、みたいな個性の強さ。そういう事が出来るのが、アジカンのアジカンたる所以なのかなぁとか。
そしてラストの「ボーイズ&ガールズ」である。ここで完全に夜が明けますね。この曲が、まぁ、もう、泣ける。
様々な事があっただろうアジカンというバンド史の、最新作のラストで「はじまったばかり」「私達はまだなにも手にしてない」と高らかに歌うことの格好良さよ。

思えば、アジカンが世に出だした頃(ソルファくらいの頃)に比べたら、ずいぶんドライな世界に来てしまったな、と思うことがある。
全国総SNS時代になって、ひとりひとりがもっともらしい意見を発せられるようになった反面、言葉はアホみたいに軽くなり、それなのにそんな軽い言葉たちに怯えて行動を慎むようになってしまったり。結果、無味無臭な、砂漠の砂のように乾燥しきってしまった時代に居る。そんなふうに思うことが。
そんな日々にももうすっかり慣れてしまっていたけど、アジカンが、もといゴッチが見ている風景はまだまだ"はじまったばかり"なものであって、膨大な数の可能性や希望を信じている。いや、信じていようとしている。この時代にそんな事を言うと"何を綺麗事を"と顔もない人間たちから罵声を浴びせられてしまうかもしれないけど、それでも、それだからこそと信じたロックンロールを鳴らしている。もう、その姿が美しくて、渋くて、かっこいい。

「ボーイズ&ガールズ」は、そんなロックンロールに憧れた全ての世代に向けた、力強い応援歌であり、この時代に向けたアンサーソングなのだと思う。

わずか41分の作品であるけれど、そこに凝縮されたものがとても濃く、それでいてさっぱりと聴ける。そういうところも素敵。
もう若い頃のように刺々しく、時には痛々しいくらいの切羽詰まったギターロックは鳴らせないかもしれないけど、アジカンがアジカンで居てくれたことが嬉しい。こういうアジカンが聴きたかったんだなと、個人的にはとても腑に落ちた。

ちなみに、初回版についてくる「Can't Sleep EP」も良い。ただ「ホームタウン」と連続して聴くよりは、間になにかクッションを挟んでから聴いたほうが良いように思う。

と、長々と書いたけど車でしか聴けてないので近いうちヘッドホンかイヤホンでも聴きたい。全然違って聴こえるだろうな。


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