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紐緖部長とぼくの話 10

割引あり

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      10

 任された以上はと思い張り切ってはみたものの、電脳部に来てくれるお客さんはほとんどおらず、閑古鳥が鳴いていた。あれだけ頑張って準備したのにと悔しい気持ちはあったが、若者の理系離れが叫ばれる昨今においては仕方のない事なのだろう。
 お陰で暇で暇でしょうがない。
 そうなるとぼくの脳はオートで回転を始めてしまう。
(『831947 71474731 4197 792361172343237197 ?』って言ってたよな。確か……)
 部長の謎かけ。
 この意味がどうしてもわからない。
(大体何なんだこれ……。数字の羅列だって事以外、何も分からないぞ……。足したり引いたり掛けたりするのかな。それにしたって最後の数字、桁が大きすぎる)
 部長は、「安院くんが頭を捻れば、必ず分かるから」と言った。ヒントは教えないと言っていたが、口数が少ない代わりに意味のない事は喋らないあの人のことだ、これまでの会話に必ず糸口となるものがあるに違いない。
(なにかあるはずだ、なにか……)
 そうだ。確か、大学レベルやそれ以上の難問ではないって言っていたはずだ。ぼくが頑張れば解けるということは、高校一年生までの範囲に収まるような内容ということなのだろうか。
 そうなると、二次関数、数列……それとも二次方程式か、はたまたプログラミング関係だろうか。それとも素因数分解?
 どれもしっくりこない。意味のある言葉になりそうな気がしない。
 いや、まてよ。学年の違う部長が今の一年の授業の進捗を正確に把握しているとは思えない。そうなると求める知識は中学生以下ということになるのか。それとも部長の考えることだ。「このくらい余裕でしょ? 私ならこの程度のレベル、小学生の頃でも余裕だったわよ」などと言い、高二や高三レベルの知識を求めているのだろうか。そうなるとお手上げだ。
 いや、部長を信じよう。ぼくが解ける暗号って言ったんだ。その可能性は今ある知識を使い尽くしてからだ。

 ~数時間後~
(うーん……わかんないや)
 そもそもぼくの様な凡人が部長のような天才の思考をトレースすることに無理があるのかもしれない。そもそも数学を使って考えるものなんだろうか、これ。
 わからないものはわからない。
 気分転換が必要だ。
 部長に断りを入れて、ぼくは遅めの昼食を買いに出ることにした。
 普段なら昼休みの時間も過ぎている時間帯だが、今日は何せ文化祭だ。飲み食いするのに不自由はしないだろう。

 ◇

 部長にも差し入れをと思い、たこ焼きとワッフルを買ってくることにした。
 校舎内を闊歩していると、文化祭の賑わいが目に飛び込んでくる。
 日頃からそう思ってはいたが、改めて見るとわが校の女子のレベルはすごく高い。特に3年の先輩なんて、下手なアイドルなんて目じゃない美少女がゴロゴロいるんじゃなかろうか。
 今日は特にそう感じた。中には髪を染めバリバリにメイクを決めたり、セクシーな衣装に身を包んだ女子がいたりと、普段なら校則違反で咎められそうなことが文化祭だからと何となく容認されている雰囲気がある。
 それだけには留まらない。中には男性に媚びるような性的目線を向けている女子が散見される気がする。
 さっきそこですれ違った3年女子の先輩(名前は知らないけれど、ボブカットを真っ赤に染め、遊び慣れしていそうな感じだった)など、特にそうだと言える。
 ギャルギャルしいその先輩は、ギリギリまでローライズ化した改造制服で身を包み、倍以上は年上とおぼしきダブルスーツのおじさんに腕をからめ、エロティックに媚びた笑顔を向けていた。
(まさかアレ、援助交際とかしてたりするんじゃないよな……?)
 そのような有り得ない妄想が頭をもたげるのも、無理なからぬところだろう。
 想像してみた。
 誰もいない体育館の用具倉庫。休憩と称してさっきの先輩は二人きりの密室を作り出す。
 体育用マットに隣同士一緒に座り、胸の谷間を見せつける。密室には甘酸っぱいJKの体臭が充満する。スラックス越しの股間に、白魚のような手指をすりすりっ、すりすりっと這わせてゆく。
 おじさんは下卑た笑みを浮かべ、一万円札を胸の谷間に挟み込む。
 ギャル先輩は両脚の間にしゃがみこむと、ニヤニヤと小悪魔フェイスで見上げ、慣れた手つきでジッパーを下ろしてゆく。そして━━。
(っと……い、いけないいけない……! なんてこと想像しちゃってるんだ、ぼくは……)
 破廉恥な妄想をしてしまった事を恥じつつも、ぼくは前かがみになりながら電脳部へと早足で駆けだした。

 ◇

 部室に戻ると、部長がコーヒーを淹れつつ待っていてくれた。
「随分遅かったじゃない?」
 時計は既に午後3時を回っていた。
「す、すいません。ちょっと……」
 まさか通りがかった先輩をオカズに卑猥な妄想に耽っていたなどとは言えず、ぼくは言葉を濁した。
「ま、いいわ。食べましょ」
「はい……」
 先程あんな想像をしてしまったからか、目の前の紐緖部長に過剰に女を感じてしまう。
 さっきのギャルっぽい先輩もスタイルはいい方に思えたが、プロポーションなら紐緖部長も負けてない。胸は同じくらい……かな。だが、全体的にシルエットが細身な分部長の方が巨乳にみえる。
 さっきの先輩は谷間をオープンにしていて良くも悪くも開けっ広げな印象を受けたが、対する紐緖部長は普段白衣という名のヴェールに覆われているため、クールでミステリアスな容貌と相まって男の想像をかきたてるものが有ると思う。
 しかもその隠された美巨乳、ぼくはこの目にはっきりと納めたことがある。あれから二ヶ月ほど経ったけれども、桜色の先端から滴り落ちる水滴ひとつひとつさえいまだに鮮明に思い出せるほどだ。
 個人の好みもあるかもしれないけれど、ぼくなら部長に軍配を上げたいと思う。 
「そういえば安院くん」 
「ぶほぉっ!!」
「どうしたのよ!? 染みになるから、コーヒーなんて溢さないで」
「す、すみません……!」
 慌ててテーブルを拭く。
「……で、どうなのよ?」
「はい! ぼくはオープンより慎みがあったほうが……」
「ねえ、なんの話をしてるのよ。問題の話よ」
「えっ……は、はい!? も、問題……問題……。ええと、その……すいません。一生懸命考えてはみたんですが、ぼくには全然です……」
 部長はこめかみに手をあて、ふっとためいきをついた。
「安院くん」
「はっ、はい……!」
「あなた、映画は好き?」
「えっ……? ええと、まぁ、人並みには観る方かと」
「よかったわ。安院くんの事だもの。映画もドラマも全く観ないなんて言われたら、一体どうしようかと思ったわ」
 頭に疑問符が浮かぶ。部長はぼくの事をなんだと思っていたのか。いや、それ以前に一体なんの話をしているのだろうか。
「映画館まで見に行く? それともレンタルや動画配信サイトで済ませちゃう?」
「そ、そうですね。映画館まではちょっと……、よっぽど見たいヤツじゃないとなかなか行かないです。一緒に行くような友達もいないし、高いし、タイパ悪いですからね。ここのところは大抵配信サイトに観たいのが来たら観るかなって感じです」
 部長の眉がピクリと上がったように見えた。
「ふぅん、そうなの。配信サイトって色々あるけど、安院家では、どこか入ってるやつはあるのかしら?」
「アマプラとか、ネトフリとか、フールーとかってやつですか?」
「そうそう。そういうやつよ」
「うちはアマプラ一択です。安いし、学割効くし、何より他より作品数がメチャメチャ充実してますからね」
「フッ、私も同感よ。映画ならやっぱりアマゾンプライムよね。ちなみに私はバイオレンスアクションものなんかよく観るんだけど」
「え、ええ……」
 ほんのちょっぴりだけ『部長も映画とか観るんだ……』と思ったのは内緒だ。てっきり何を観てもくだらないわね、とか言って一刀のもとに切り捨てそうなイメージだったが。
 いつの日か、部長と一緒に映画館デートに行けたらなと思う。
 手に汗握る怒濤のアクション。隣に座る部長と文字通りお互いの手を握りしめる。後半あたりで無意味に差し込まれるラブシーン。ドキドキしながら横に目を向ける。鼓動さえも共有しながら、視線が交錯し、唇と唇が急接近してゆき━━。
「……安院くん? どうしたの、ぼうっとして」
「はっ!? い、いえ……。なんでも……」
「……? まあいいわ。ところで、言っておきたい事があるんだけど」
「な、なんですか……?」
「ヒントは以上よ。あとは自分で考えてみなさい」
「ええっ!?」


☆おまけ☆
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赤い髪のギャルギャルしい先輩がおじさん相手にHなことをする話はこちら


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