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紐緖部長とぼくの話

割引あり

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 ぼくの名前は安院 愁太郎(あいん しゅうたろう)。ここ私立きらめき高校に通う一年生男子だ。
 唐突だが、この文章を読む皆さんは部活動と言えば何が思い浮かぶだろうか?
 恐らく大半の人は、まず野球、サッカー、バスケットといった運動部が思い浮かぶんじゃないかなと思う。美術部、吹奏楽部や科学部といった文化系の部活が出てくる人は少数派だ。まして電脳部などという怪しげな名前の部など━━。
 さて、このようなマクラで既にお察しかとは思うが、そんなぼくの所属する部、それこそが電脳部だ。
 電脳部は三年の紐緒結奈部長、それにヒラ部員のぼく。たった二人だけでやっている部活だ。顧問の先生はいたような気がするが何せ一度も見たことがないので顔も名前もわからない。部員数は学校に正規の部として認めてもらえる存続要件の五名を下回っているのだが、不思議と誰からも何も言われたことがない。
 電脳部とはいったい何なのか。
 実は入部して半年が過ぎた今でも、正直言ってよくわかってない。
 言い換えれば「よくわからない」ということが一番わかっているところだ。
 とにかく、ぼくは故あってそんな部に入部してしまった。
 そのときの話をしよう。
 半年少々前のことだ。高校に入って最初の小テストがあった。化学や物理といった理科系科目でヤマが当たり、元々理系科目にはちょっと自信があることもあってたまたま満点を取ることができた。
 その翌日、どこからか話を聞き付けてきたのか、つかつかと一年の教室までやって来た女子の先輩がいた。それが紐緖部長とのファースト・コンタクトだ。
 そして、しつこく電脳部への勧誘を受けた。最初は入部する気も何もなかったが、休み時間の度に紐緒先輩は一年の教室に現れた。特段他の部活に入っていなかったことも災いして翌日には半強制的に電脳部に所属させられた。紐緒部長の仕業だ。退部や転部は何故か訴えても手続きが受理されなかった。
 最初は反発したものの、次第に抵抗するのにも疲れてきたので、以後は渋々ながら電脳部の活動をやっている。
 それではもう少し突っ込んで『電脳部の活動内容は?』と、問われたとする。しかし、これまたぼくは胸を張って答えることができない。理由は二つ。
 電脳部では普段、紐緒部長の指揮のもと化学、物理、コンピュータに関する様々な実験を行っている。一つ目の理由であるが、その内容が難解すぎてぼく如き凡才では半分も理解しきれないことだ。
 多分だけど高校の部活動でやるレベルは言うに及ばず、大学の研究室レベルさえも余裕で超えているんじゃないだろうか。ぼくなどは一応助手とは言うものの、殆ど紐緒部長の指示で手を動かすだけのマシーンと化している。
 もう一つの理由は部長の持つ怪しげなコネクションにより様々な組織、団体から実証実験、測定依頼といった案件が舞い込んでくるためだ。中にはつきあいが公になるとコンプライアンス的に少々よろしくない相手も含まれているため、実験内容はおろか依頼自体を明かせないこともある。
 ぼくだって命は惜しいので、こんな一人語りの中で死のリスクを負うことはご容赦いただきたい。
「ふん、世の中には自分では大した仕事も出来ない無能なくせにコンプラばかり五月蝿い馬鹿がウジャウジャいるの。法律とかいう書いた人間すら意味を理解していない文書の隙間には、美味しい仕事がこんなにも転がっているのにね。お陰さまでこっちは大繁盛。これも野望のための第一歩よ……。ククク……」
 部長の言っていることは例によって意味がよくわからなかったが、そう語るときの瞳は目が眩みそうなほどに爛々と輝いていた。
 そうして得た利益を元手に、部長はもはや高校の部活で取り扱うには不釣り合い過ぎる高額な装置を次々と調達している。そして、常人には理解できないような怪しい実験を日夜繰り広げているのだ。
 それが電脳部だ。

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