紐緖部長とぼくの話 3
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部屋に戻ると、 湯上がりの部長は浴衣に着替え、つまらなそうな顔でテレビを見ていた。
部屋には風呂上がりの甘い香りとともに気まずい沈黙が流れている。
部長はいつも通りクールな表情を崩さない。どちらかというとぼくの方が狼狽し━━あるいは、狼狽を隠そうとぎこちない所作になっていた。
そのような心理状態のため、食事の時間が訪れても会話一つなかった。互いにそれほど口数が多い方ではないが、普段は無言とまではならないのだが━━。
「ねえ、安院くん」
気まずい沈黙を破るように、部長が口を開く。
「どうしたの、さっきから。サプリでも飲む?」
傍らから錠剤が入った瓶を出してくる。心遣いが身に沁みる。
「だ、大丈夫です……」
だが、ぼくはこのとき感謝とは別の邪な感情に支配されかかっていた。
意識してしまう。
その浴衣に隠された乳輪の色を、うっすらと茂る陰毛の色艶を、そして、あまりにも魅力的なサーモンピンク色をした女の恥部を━━。
「……んん? なにか変なものでも見たのかしら?」
「……い、いえ……」
「例えば━━」
「えっ」
「女の裸とか」
「っっっっ!?」
瞬間、心臓が口から飛び出てきそうになった。
「どうしたの? 早く食べましょ。冷めちゃうわよ」
(バ……、バレてる……!?)
部長の声色はいつもと変わらず、あくまで淡々としたものだ。だが、一見普段と変わらぬ用に見える眦が、僅かにきりりと吊り上がっているように見えるのは気のせいではないだろう。
「せめて裸眼だったら気づかなかったかもね。光の反射でバレバレよ」
「あぁ、うぁあ━━」
「話の続きは食べた後でね」
「は、はひ……」
残りの料理を無理矢理胃に流し込んだが、味は全くしなかった。
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