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「なぜ働いていると本が読めなくなるのか」~エビデンス主義は「ノイズ」を許さない~

 清野由美(ジャーナリスト)さんの書評が素晴らしいと思いました。流石さすがプロのジャーナリストです。ポイントを突いています。

 三宅香帆さんの「なぜ働いていると本が読めなくなるのか」(2024年集英社新書)は私も読みましたが、「ノイズ」が鍵という視点は、なるほどな、と思います。 
 確かに、三宅香帆さんは「読書とはノイズである」けれど「自己啓発書はノイズを除去する」のだと喝破しています。(『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』集英社新書 p135,137)
 ノイズを除去する自己啓発本がバカ売れしている現代だからこそ、必要なのはノイズ、つまり、教養/リベラル・アーツなのかもしれません。

 この「ノイズ」が鍵というのは、斎藤幸平さんが指摘している、リベラル・アーツ(liberal arts)の重要性にもつながると思うのです。

「古典を読むことによって、単なるマニュアル思考には収まらないスケールの知の体系に出合えることです。カントやヘーゲルを読むとなると、それを10分でまとめることは不可能です。そこに直面したときのスケールの大きさというのは何か途轍もないものがあって、そのようなものに触れることで、逆に、目先の効率性やマニュアル思考を相対化し、より大きな視点から社会や世界について捉えられるようになります。

100年企業戦略 ONLINE「なぜ古典を読むべきなのか」強調は祐川

 資本主義社会、新自由主義社会で、労働力商品としての自己価値を高めるために寸暇すんかしんで自己啓発本を読むのでしょう。ですから、自己啓発本は効率的に知識を得られるようにする必要があり、余計な?「ノイズ」を排するのは当然でしょう。

 この「ノイズ」を排する姿勢は近年の生産性向上、科学主義、エビデンス主義にも通底するものだと思うのです。

 新自由主義に染められた社会では、この生産性向上、科学的エビデンス主義は効率的なものとして強く推奨されています。
 エビデンス主義が推奨されるのは、少ないパラメータで自動的に判断が可能となるからです。

 この「ノイズ」を排して効率性を向上させようとする傾向、科学的エビデンス主義は介護の世界でも政府によって協力に推進されています。
 
エビデンス主義に基づいたEBC(Evidence・Based・Care)が推奨されているのです。

 しかし、実際の介護では数値化できない事象、つまり、個々人のナラティブ(narrative物語)、経験、主観、感情、気分が大切なのです。
 それをエビデンスという限られたパラメータ(parameters:変数)だけを参照項目として介護し、その介護の質を判定するのは、人間の矮小化、介護の矮小化だと思います。

 「読書とはノイズ」なので、効率性、エビデンス主義の時代には等閑なおざりにされてしまうのでしょうね。
 わたしは、このノイズ、一見無駄に思えるかも知れない、読書、リベラル・アーツ、教養の重要性を忘れてはならないと思っています。


 エビデンス主義について以下のnoteをご参照願います。


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