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スワロウテイル

 「スワロウテイル」1996年に公開された岩井俊二監督の作品です。僕は公開されてまもなく当時の恋人と観に行きました。当時住んでいた千葉市の京成線千葉中央駅の近くの京成ローザだったと思います。僕は1990年代の邦画と聞かれればこの作品を真っ先に思い浮かべます。

 この映画は日本円がまだ強かった時代の記憶が記されています。1991年ごろから始まったバブル経済の崩壊により日本の経済はすでに陰りがみえていたころに作られた作品ですが、歪んだ明らかにおかしいが強い国だった日本の記憶です。これにはピンとこない方もいるかもしれません。特に若い方はそうかもしれません。でも本当に日本が「円都」であった時代があり、そこに円を求めて集う「円盗」のような人々がいたのです。

 僕は観た時に、誇張はされているが身近にある日本の姿だと感じていました。僕は現在は生まれ育った同じところに住んでいます。地方都市ですが郊外ではなく町の中心になります。その町はどのような場所かというと元は遊郭があった花街です。第2次大戦後には赤線と呼ばれていた場所になります。かつては家から歩いてすぐのところには吉原大門のような大きな門があったと聞いています。僕が子供の頃にはまだ古い遊郭の建物も残っていました。小学校に通う頃、近所にはラブホテルがたくさん建設され、それも花街の名残だったのだと思います。空き家のような建物も多くあり、子供の頃は友人と空き家に入ってみたり、ラブホの建設現場で遊んだりもしていました。考えてみたら危ない遊び場ですね。

 遊郭が近所にあった自宅から町の中心に向かっていくと繁華街になっていきます。スナックやPub、Bar等の飲食店が軒を連ねる町になっていきます。昔よりは寂れたのかもしれませんが、今でもその景色は変わってはいません。その繁華街にある時期から東南アジアからの出稼ぎの方が増えてきました。ほとんどが女性で飲食店で働いている方ばかりでした。フィリピンから来ている方が当時は多かったと記憶しています。映画の中の「円盗」のような方がたくさんいました。そして四半世紀近くが経過しましたが、のちに増えてきた韓国、タイから来た方もたくさん住んでいると思います。そして今は僕の子供たちが通っていた小学校にはその方たちの二世の子供たちが通っています。日本人との混血の子もたくさんいます。

 日本はもはや景気の良い「円都」はなくなって久しいですが、その方たちは円の価値が下がったにも関わらず日本に住み、働いてくださる人々になったのかもしれません。映画「スワロウテイル」では故郷に帰りたかった人、帰れなかった人、帰ることを望まなかった人、そして二世の人が描かれています。当時は二世のことは僕にはわからないことでした。それが今は割と身近なものとして存在しています。日本で生まれた二世の人たちはどこを故郷と思うのでしょうか。

 once upon a timeから映画は始まるのですが、昔々のお話ではなく、四半世紀が過ぎた今でも「スワロウテイル」に描かれた世界は続いているような気がしています。あの時代を引きずったまま日本はここまで来てしまったのではないでしょうか。

 この映画は様々なテーマを内包していると思います。僕の印象は96年当時と変わりません。そして年齢を重ねて、身近な世界の話であったのだと当時よりも強く思います。2023年現在においてこの映画の立ち位置というものは僕ははっきりとわかりません。僕はDVDで年に一度は見続けている映画です。生きていく指標の一つになっているかもしれません。若い世代の方でこの映画を観た方がどういう印象を持つのか聞いてみたいものです。

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