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総合誌、同人誌等で過去に掲載されたものを放り込んでいきます。
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#評論

青春を弔うために――清原日出夫と岸上大作

青春を弔うために――清原日出夫と岸上大作

 冨士田元彦によると、中井英夫は決して岸上大作を認めなかったらしい。「かたくななまでの拒否反応を示しつづけ」、岸上の自死を冨士田が知らせても「いとも冷然と『清原でなくてよかったね』などという答えが返ってきて、くさらされた」という(『冨士田元彦短歌論集』国文社、1979年)。

 そんな角川「短歌」歴代編集長の間で評価の一致した稀有な例の一人が、清原日出夫(1937~2004)である。清原の第一歌集

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風通しの良い「場」を目指して(「現代短歌」2016年8月号歌壇時評+あとがき)

 「歌壇」[2016年]6月号の特集「結社の進路――結社の近未来を考える」を読んで、しばらく考えさせられてしまった。寄せられた文章のタイトルだけを並べると、「歴史の蒸発、地方の死」(山田富士郎)、「かなり暗い」(五十嵐順子)、「少し楽観的に」(中地俊夫)、「わたしたちの、不断の文学活動が大切だ」(岡井隆)という調子で、目次を開けただけで気が滅入りそうになる。だが、結社構成員の高齢化や、若年層の結社

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「声」の持ち主(「現代短歌」2016年7月号歌壇時評+あとがき)

 最近、短歌における「声」について、ぼんやりと考えている。

 「歌壇」[2016年]3月号の座談会「震災詠から見えてくるもの」において本田一弘は、自身の最近作「さんぐわつじふいちにあらなくみちのくはサングワヅジフイヂニヂの儘なり」(「サングワヅジフイヂニヂ」「短歌研究」[2016年]2月号)に触れつつ、「自分たちの世界は『サングワヅジフイヂニヂ』という濁音であり、ちょっとなまっている。あれから五

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いたみつづけること――清原日出夫小論(「塔」2015年1月号)

 1963年4月、清原日出夫は「短歌」(角川書店)誌上に「暁闇」30首を発表する。のちに歌集『流氷の季』に収められた際にも、歌集後半、第III部の中心として据えられた連作である。

高層に組まれゆく鉄骨荒々といまだ生身の脆さ親しき
すでに明日は今日の心と来て重しわが双の掌ゆ逝きし〈労働〉
〈自由〉この捕われの身のさながらに事務服の群来たり立ち読む
さしあたり何求めんといし書店楽を流しいてバルトーク

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よそ者で馬鹿者で若者であるために(「現代短歌」2016年6月号歌壇時評+あとがき)

 学生短歌会の興隆が語られて久しい。去る[2016年]3月6日(日)には「大学短歌バトル2016」と題された歌合が、動画配信サービス「ニコニコ生放送」を通じてインターネット中継された。今年で二回目になる学生対抗歌合は、九州の三大学の学生が結成したチーム「ここのつ歌会」が優勝し、劇的な幕切れとなった。この時評の執筆段階では未発売だが、「短歌」[2016年]5月号にはイヴェントのレポートも掲載されると

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振れ幅と混沌(「現代短歌」2016年5月号歌壇時評+あとがき)

 鳥居、という名の歌人が出した第一歌集『キリンの子』(KADOKAWA)が話題になっている。歌集と同時に、彼女のこれまでの境遇に関する新聞連載をもとに加筆修正されたルポルタージュ『セーラー服の歌人 鳥居』(岩岡千景著、KADOKAWA)も出版され、鳥居本人も[2016年]3月17日に最終回を迎えたNHK総合の「クローズアップ現代」に出演するなど、メディアの注目は熱い[注・同番組は2016年4月4日

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私の中にいる他者について(「現代短歌」2016年4月号歌壇時評+あとがき)

 「分かる/分からない」という二分法はとても便利だ。だから怖い。

 私たちがある作品を読んで「分かる/分からない」と感じるのは、どういう事態であるのか。前回取り上げた「人間」に関する話題も、近年の若手(?)歌人の短歌に対して、何とかして読みのコードを発見しようとしているから生じる議論であるわけだが、それは裏を返せば、作品を読みこなすためにはある種のコードの存在を承知しておかなければならないという

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人間、この問われるもの(「現代短歌」2016年3月号歌壇時評+あとがき)

 勿論ここで安易に結論が出されても困るのだが、それでもお互いの話のあまりのすれ違いぶりに、暫く呆然としてしまった。「短歌」[2016年]1月号の新春座談会「短歌における『人間』とは何か」の話である。

 座談会中、ずっと困っていたのは穂村弘だろう。小池光が永井陽子の歌に対して「もし永井陽子さんがのうのうと生きて今六十幾つになっていたら、この歌もおのずから別の読み方というか評価になってこざるをえない

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