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月の満ち欠けと生理と微生物の関係

明日は満月ですね。
月は、生体リズム(特に女性)と関係があると考えられることが多い。

「月の満ち欠け 生理」などで検索すると、スピリチュアル系の記事がゴマンとヒットする。

私には(残念ながらというべきか、ありがたいことにというべきか)、スピリチュアルな能力は無に等しい。
スピリチュアルな能力があるといろいろ大変なことも多いと思うが、今回はちょっと科学的な視点から「月の満ち欠けと生理」を書いてみる。


・本文中のカッコ付き番号は、記事下部の参考文献の番号を表しています。
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月経周期と月の満ち欠け

多くの女性の場合、月経周期はだいたい29日前後だ。
これは月の満ち欠け周期とほぼ同じで、生理を月経と呼ぶように、月の満ち欠けと生理は昔から何かと関連付けて考えられてきたらしい。

私の場合は、ここ何ヶ月かぴったり満月に生理が来る。

思うところあって去年の秋からヨガを初めて、体調にもよるが週に5〜6回は45〜75分くらいのヨガをしっかり続けている。
理屈は知らないけれど、ヨガを続けていると「食欲が落ち着く」とか「生理が満月に近づく」という噂を聞いていた。

食欲のほうは落ち着く気配がないが、満月に生理が来るのはおもしろい。

前は生理の周期がまちまちだったのも揃ってきたし、何より月経前症候群(PMS)、いや月経前不快気分障害(PMDD)と言ってもいいような生理前2週間の地獄がほぼ消えた。(この辺は、通っている漢方内科医の腕がいいのかもしれん)

満月と生理が揃うのは、いいことなのだろうか。

月と潮の満ち干きの関係

体に対する月の影響を考える際、海のことを考えると理屈が通りやすい。

海には、1日に2回ずつ満潮と干潮がある。
これは、地球が自転しているために月と自分のいる位置が直線にならぶのが2回、直角にならぶのが2回あるから。(HONDAさんのサイトわかりやすい)

似たような理屈で、大潮と小潮がある。
これは、太陽、地球、月の位置が関係しているが、だいたい29.5日で大潮と小潮が2回ずつくる。
大潮とは満月と新月の影響を受けて(厳密にはちょいと遅れて)、満潮と干潮の差が大きくなる現象のことだ。

月の満ち欠けが海に及ぼす影響は大きく、特に海の生き物たちのには月の満ち欠けによって行動を変えるものもいる。
月のリズムを体に宿す奇妙な海洋生物たち | ナショナル ジオグラフィック日本版サイト

月の満ち欠けと生体リズム

では、月の満ち欠けは陸上にいる生物、もっというとヒトに影響を及ぼすのだろうか?
月の満ち欠けと生体リズムの関連を研究する科学者はたくさんいるが、まだ明確な結論は出ていない。

海ほどの塩分はないが、ヒトにも体液があるので、それが引力の影響を受けることはありうる話だ。

概日リズムと生体リズム

少し寄り道をする。
およそ一ヶ月単位の月の満ち欠けではなく、およそ一日ごと(25時間弱)に生体リズムが変わる「概日リズム」という考え方がある。

睡眠ホルモンや、代謝にかかわるホルモンなどが一日単位で一巡するのだ。

これには太陽光が大きな役割を果たしていると考えられているが、満月のときは夜も月の光で明るいので、概日リズムに何らかの影響を及ぼすのではないかと推測されている。

実際、満月に眠りの質が悪くなるという研究もあるにはあるが、最近は遮光カーテンをひいて眠る人も多いし、日が沈んでも照明がついた部屋にいるのが当たり前だし、スマホを眠る直前まで触っている人もいるから、この手の研究をするには考慮すべきことが山ほどある。(1,2)

概日リズムとマイクロバイオーム

ちなみに、細菌を含む微生物たちは概日リズムに左右されるのだろうか?
答えはYESだ。

長いあいだ、細菌は1日よりもずっと短い時間で細胞増殖をするため、概日リズムは関係ないと考えられてきた。
けれど、光合成をする細菌であるシアノバクテリアに概日リズムがあることがわかり(3)、その後は光合成をしない細菌(4)や、腸内細菌にも概日リズムがある(5,6)ことがわかってきた。

このあたりは掘り下げるととんでもないことになるので、別の機会にもっと詳しく見ていこう。

月経や出産

満月や新月に生理が多いという話(しかも満月のほうがなんだかいいらしい)や、出産が満月にかぶりやすいといった産婦人科医や助産師の証言は、たしかに存在する。

ただし、それらはまだ科学的には立証されておらず、もし正しいとしても、先に述べた生活習慣の変化などで、現代の生活では月の影響が小さくなっている可能性もあり、科学的にどこまで立証できるかは謎だ。

月の満ち欠けとマイクロバイオーム

月の満ち欠けが、海の生きものたちに影響しており、さらには概日リズムや陸の生きもののリズムにも影響するかもしれない。

では、微生物たちはどうだろう?
概日リズムと同じで、月の満ち欠けにも影響を受けているのだろうか?
この問いに対する研究は充実しているとは言えないが、海洋微生物の分野で少しはある。そういった興味をそそる研究に没頭する科学者たちの研究を少し紹介してみよう。

サンゴ礁での微生物叢の一時的な変化

南カリフォルニア大学の研究チームによる研究(7)では、沿岸水域の海洋微生物群集が季節的および潮汐の変動にどのように影響されるかを調査しており、潮汐による水の入れ替わりが微生物の分布と多様性に大きな影響を与えることが示されている。
月の満ち欠けとは直接関係ないが、潮の変動が微生物に与える影響を示唆している。

月光と海洋微生物のリズム

別の研究(8)では、月光が海洋微生物(植物プランクトン)のリズムに影響を与えることを示している。特に満月時に夜間の光が強くなることで、微生物の活動パターンが変化することが観察された。

細菌ではどうなのだろう?
残念ながら、細菌と月の満ち欠けを直接的に研究した論文は見つけられなかった。

膣内細菌は生理周期で変わる

ちなみに、女性の膣内細菌は生理周期に合わせて大きく変わる。
膣の細菌を調べた大規模な研究(9)では、女性の膣内細菌はおおむね4つのタプに分かれるが、いずれも生理周期ごとに細菌バランスが大きく変化していた。
(このあたりについては『マイクロバイオームの世界』第6章が非常におもしろいのでおすすめ)

生理と月の満ち欠けが関係しているのなら、間接的に膣内細菌も月の満ち欠けの影響を受けているのかもしれない。

まとめ

記事で見てきたように、現時点では月の満ち欠けとヒトのマイクロバイオームとの直接的な関連性を示す決定的な証拠はほとんどない。

けれど、月の満ち欠けと潮の変動、概日リズムと生体リズム、微生物の生態などを総合的に眺めていくと、それらが関係ないはずがないと思えてくる。

ただし、上でも述べたように、現代の生活は月の光をはじめとした自然のリズムを感じにくい生活になっている。
月の満ち欠けの影響をちゃんと受ける体は、健康の指標のひとつになるのではないか?
とまで言ってしまうと乱暴かな。

生理が満月に揃ったのって何か意味があるのかな? と書き始めた記事が、こんなことになるなんて思ってもみませんでした。
お付き合いいただきありがとうございました。

1. Turányi CZ, Rónai KZ, Zoller R, et al. Association between lunar phase and sleep characteristics. Sleep Med. 2014;15(11):1411-1416. doi:10.1016/j.sleep.2014.06.020
2. Smith MP, Standl M, Schulz H, Heinrich J. Physical activity, subjective sleep quality and time in bed do not vary by moon phase in German adolescents. J Sleep Res. 2017;26(3):371-376. doi:10.1111/jsr.12472
3. Kondo T, Mori T, Lebedeva NV, Aoki S, Ishiura M, Golden SS. Circadian rhythms in rapidly dividing cyanobacteria. Science. 1997;275(5297):224-227. doi:10.1126/science.275.5297.224
4. Soriano MI, Roibás B, García AB, Espinosa-Urgel M. Evidence of circadian rhythms in non-photosynthetic bacteria? J Circadian Rhythms. 2010;8(1):8. doi:10.1186/1740-3391-8-8
5. Paulose JK, Wright JM, Patel AG, Cassone VM. Human Gut Bacteria Are Sensitive to Melatonin and Express Endogenous Circadian Rhythmicity. PLOS ONE. 2016;11(1):e0146643. doi:10.1371/journal.pone.0146643
6. Voigt RM, Forsyth CB, Green SJ, Engen PA, Keshavarzian A. Chapter Nine - Circadian Rhythm and the Gut Microbiome. In: Cryan JF, Clarke G, eds. International Review of Neurobiology. Vol 131. Gut Microbiome and Behavior. Academic Press; 2016:193-205. doi:10.1016/bs.irn.2016.07.002
7. Fuhrman JA, Cram JA, Needham DM. Marine microbial community dynamics and their ecological interpretation. Nat Rev Microbiol. 2015;13(3):133-146. doi:10.1038/nrmicro3417
8. Häder DP, Gao K. Interactions of anthropogenic stress factors on marine phytoplankton. Front Environ Sci. 2015;3. doi:10.3389/fenvs.2015.00014
9. Ma B, Forney LJ, Ravel J. The vaginal microbiome: rethinking health and diseases. Annu Rev Microbiol. 2012;66:371-389. doi:10.1146/annurev-micro-092611-150157

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