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用語解説(随時更新)

このnoteでは、ググらないとわからないような言葉はなるべく使わないように心がけておりますが(論文の引用以外)、
やはりどうしても専門用語はつきまといます。

この記事では、学習者のみなさんが辞書代わりに使えるように、微生物まわりに特化した用語解説を並べております。
随時更新していきますので、よきに使ってください。

より詳しく知りたければ、ぜひ調べてみてください。


【あ行】

遺伝子の水平伝播

細菌は、まわりの環境にあるDNAを自身に取り込むことで遺伝子を獲得する場合がある。「接合」「形質転換」「形質導入」の3つの方法がある。
薬剤耐性遺伝子が広がるのも、これが理由である。
一方で、私たちが親から遺伝子を受け継ぐように、無性生殖をする細菌たちも母細胞から遺伝子を受け継ぐ。これを「遺伝子の垂直伝播」と呼ぶ。

【か行】

機能の冗長性

英語では"functionally redundancy"と呼ばれ、微生物学でよく出てくる単語。
ひとつの役割を複数種類の細菌が担っている場合などに使われ、菌たちなりのバックアップ体制を示唆している。 

嫌気性菌

微生物の多くは、増殖のために酸素を必要としない。特に、動物の消化管に棲む菌たちは酸素を嫌う「嫌気性菌」である。
酸素があっても死なない「通性嫌気性菌」と、酸素があると休眠したり死んだりしてしまう「偏性嫌気性菌」がいる。

抗生物質

抗生剤、抗菌薬とも呼ぶ。細菌のタンパク質の合成を阻害するなどして、細菌の増殖を抑え、殺してしまう。
1928年にアレクサンダー・フレミングが青カビから「ペニシリン」という物質を発見したのが最初の抗生物質。
その後多くの抗生物質が発見されるが、多くが微生物由来である。

【さ行】

16S rRNA解析

私たち真核生物にはない細菌(と古細菌)に特有の遺伝子領域で、すべての細菌が持つ。この16S rRNA領域を解析すると、細菌の種が特定しやすいため、広く用いられている。

シンバイオシス

ヒトと常在細菌など、異なる生物種が共生すること。特に、双方にとって利がある「相利共生」状態を指す場合が多い。

【た行】

代謝産物

代謝の過程で生成される物質。ある細菌の代謝産物が他の細菌の栄養源になることもあるし、ヒトの栄養になることもある。

多様性(α多様性、β多様性)

生物学における多様性とは、①生態系の多様性、②種の多様性、③遺伝子の多様性の3つの観点から語られる。
微生物の分野でいちばんよく登場するのは②種の多様性で、α多様性(ある生態系の中の種のばらつき)とβ多様性(異なる生態系同士の種のばらつき)の2種類がよく使われる。
近年よく耳にする「ダイバーシティ&インクルージョン」(国籍や年齢や価値観や性的指向、障害の有無などの違いを活かそうとする動き)とはまったく別物。

短鎖脂肪酸

腸内細菌が産生する脂肪酸のうち短いもの。酪酸、乳酸、酢酸、プロピオン酸などが含まれ、特に酪酸はさまざまな疾患を防ぐ物質として注目されている。英語ではShort Chain Fatty Acid(SCFA)と表す。

腸内細菌

腸(主に大腸)に棲む細菌たちのこと。ヒトと共生する細菌のうち、もっとも数が多く、重要な働きをしているといわれる。

腸内細菌叢(腸内フローラ)

腸内細菌の集まりのこと。諸外国ではその他の微生物もまとめて「マイクロバイオータ」「マイクロバイオーム」と呼ぶことが多いが、日本ではまだこの言い方も残っている。

ディスバイオシス

シンバイオシスの逆で、常在細菌などを含むマイクロバイオームの働きがヒトに害する状態になること。

【ま行】

マイクロバイオータ(微生物)

微生物のこと。真正細菌、古細菌、真菌、藻類、一部の原生生物など、分類上はバラバラの生物たちであっても、肉眼で見えなければ微生物と呼ばれる。

マイクロバイオーム

マイクロバイオータのゲノムの総称。またはそれに加えて彼らの産生する物質や彼らの体の断片、ウイルスなどを加えた全体。

【は行】

発酵

酸素を使わずにエネルギーを生み出す代謝方法。代謝産物として酸またはアルコールを生じる。
呼吸より効率は劣るが、酸素のない環境では貴重な方法だった。
微生物の専売特許ではなく、ヒトも激しい運動などをして酸素が足りなくなると、この経路を使ってエネルギーを作る。(そして足に乳酸がたまる)

プレバイオティクス

「消化管上部で分解・吸収されない」「大腸に共生する有用菌の栄養源となり、それらの増殖を促進する」「微生物のバランスを宿主の健康に有益な方向へ導く」といった効果を示す食品成分を指す。
具体的には食物繊維が挙げられる。
1995年イギリス の微生物学者Gibsonらにより提唱された。

プロバイオティクス

十分量を摂取したときに宿主に有益な効果を与える生きた微生物。(WHOの定義による)

日和見病原体

健康な人に対してはほとんど病原性はないものの、腸マイクロバイオームの乱れをはじめとした免疫力の低下のある人にはしばしば病原性を発揮する、環境由来の細菌。

ポストバイオティクス

細菌たちの代謝産物のこと。
プロバイオティクスを摂っても細菌は定着せずに通過するだけであることが多く、その細菌が腸で働いてくれるとも限らないという観点から、それらの細菌が出す有益な物質だけを腸に供給すればいいのではないかという発想になり、最近とても盛り上がっている分野。

【ら行】

レジスタンス

生態学的には、ある生態系が外部からのストレスに乱されることなく、変わらない状態を維持する能力のこと。
ただし医学的に「耐性」と訳す場合には、ある細菌が特定の(あるいは複数の)抗生物質に対して耐性を持ち、薬が効かなくなることを指す場合が多い。

レジリエンス

ある生態系が外部のストレスにさらされて撹乱を受けたとき、その生態系がどれだけ早く、かつどの程度もとの状態(種の構成や機能)に戻る能力があるかを表す。

【ローマ字】

CDI(Clostridioides difficile感染症)

抗生物質の過剰使用後や、免疫の弱った状態にある腸内でClostridioides difficileという一種類の細菌だけが増えてしまう疾患。
国内ではさほど重大視されていないが、北米やヨーロッパで増加しており、アメリカだけで年間50万人の患者数、3万人が命を落としている。
FMT(糞便微生物移植)がよく効くため、治療の第一選択肢となっている。

FMT(Fecal Microbiota Transplantation)

日本語では、糞便微生物移植(通称:便移植)と呼ぶ。
なんらかの原因で腸マイクロバイオームの多様性やバランス失調をきたした人に、「健康な(定義はまちまち)」人のマイクロバイオームを移す治療法。

IBD(Inflammatory Bowel Disease)

炎症性腸疾患のこと。
主に潰瘍性大腸炎とクローン病を指し、CDIに次いで腸内細菌分野でよく研究されている疾患。


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