見出し画像

ぜんぶ読んで選んだ、(入門〜上級)微生物・腸内細菌をもっと学ぶためのおすすめ一般書12選

何かを学ぶとき、どんなふうに学びはじめますか?

ネット検索、スクールや習い事に通う、動画を見る、本を読む。

私は、だんぜん本を読む派です。
まずはネットでおおまかなあたりをつけて、本をしっかり読みます。

ネット検索のいいところは、短時間で必要な情報を(その信頼性はともかく)さくっと得られるところ。
本は、体系的にしっかり学べます。
どういうわけか、本で学んだほうが忘れにくい気がします。

というわけで、このnoteでもできるだけ体系立てて少しずつ知識を学べるように組み立てていくつもりですが、
本で学ぶ派の人のために、微生物のことを学べるおすすめの一般書をご紹介します。


まえがき

すべて、私が最後までじっくり読んだことのある本に限定しています。なので、あまり数は多くありません。
このnote記事を書く際にもお世話になった本ばかりです。

この分野は黎明期〜成長期にある分野で、5年経つと常識が変わっているという場合もあります。
ですが、2010年前後の論文は古典として今でも引用されることも多く、一般書でも2015年以降の出版であれば全体としては大きく間違っていないだろうという印象があります。

時を経ないとわからないこともあって、新しい情報のほうがいい、とも一概に言えない世界で、この分野の権威や優秀な科学ライターたちが定期的にまとめる書籍を読むと得るものがたくさんあります。

全体的にヒト共生マイクロバイオームの比率が大きめですが、微生物そのものの生態や進化史、環境中の微生物についても研究が進んでいて、一般書も存在します。

あと、本文でいちいち触れていないけれど、翻訳者の方たちの仕事もすごい。

入門編 まずはここから。

腸内細菌のことはほとんど知らない、という方におすすめの本たちです。
だからといって、いわゆる一般的な腸活本のように、変に煽ってきたり、美容系のきらきらした話題や精神論に特化しているわけでは決してないです。

ちゃんと科学的なエビデンスや見解に基づきつつ、ものすごくわかりやすく書いてくれている書籍です。

これらの入門編を読んで、もっと詳しく知りたい!と思った方は、初級編以降に進まれるといいかと思います。

『9000人を調べて分かった腸のすごい世界 強い体と菌をめぐる知的冒険』/國澤 純

こちら『9000人を調べて分かった腸のすごい世界 強い体と菌をめぐる知的冒険』は2023年4月出版の、一般書としてはかなり新しい書籍です。

著者は国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所 ヘルス・メディカル微生物研究センター センター長である國澤 純氏で、彼は間違いなく日本の腸内細菌研究のトップ級の一人です。
個人的にファンです。

2019年には弊社の関連法人である一般財団法人腸内フローラ移植臨床研究会第3回学術大会でも基調講演をしていただいたのですが、ハンパなくレベルの高い内容なのに、一般人にも最後まで面白く聞くことができました。
コミュニケーションスキルも高い研究者って、珍しくないですか?(失礼やな)

かなり詳しく、かつわかりやすく、最新の情報を手っ取り早く知りたい人に最適な一冊です。
タイトル通り、ヒト共生マイクロバイオームのうち腸内細菌をメインに扱っています。

『細菌が人をつくる』/ロブ・ナイト

2018年出版の『細菌が人をつくる』は、アメリカの著名な微生物学者であるロブ・ナイト(Rob Knight)氏が著者です。

この本は彼の2014年のTEDトークが元になっていて、この仕事をはじめた頃に動画を見た私は、ポロシャツ&ほっそりカッコいいKnight氏を勝手に推しメン認定していました。(名前もカッコいいよね。Knightって。)

が。
2018年に来日して講演した氏は、なんか…ふつうの…オッチャンでした…
ちょっと二重顎になって、ダボッとしたスーツだったからでしょうか。多忙って大変。

とにかく、科学というのは正確さを維持したままここまで噛み砕いて説明ができるのか! と舌を巻いた一冊。
このくらいわかりやすく書けないうちは、ちゃんと理解しているとは言えないよなぁと自戒をこめておすすめします。

簡単だけれどテキトーではなくて、ほぼすべての記述にリファレンスがつけられています。こちらもヒト共生マイクロバイオーム(特に細菌)が話題の中心。

『腸内細菌が喜ぶ生き方』/城谷 昌彦

こちらは2019年出版の『腸内細菌が喜ぶ生き方』です。
著者はルークス芦屋クリニック院長の城谷昌彦氏。
弊社関連法人である一般財団法人腸内フローラ移植臨床研究会の専務理事をなさっておられる方です。

城谷先生は、潰瘍性大腸炎を患って大腸を全摘しておられ、その経験も書籍の中で語られています。

腸内細菌と宿主が共生してひとつになっているさまを「ホロビオント(holobiont)」と呼ぶことがありますが、西洋医学の欠点のひとつに木を見て森を見ない、つまりホロビオントとして見れていないことが挙げられると思います。

著者は西洋医学はもちろん、東洋医学や心理学等にも精通し、広い視点で腸内細菌と向き合っておられる数少ない人だと言えます。

初級編 もう少し詳しく、でもがっつり専門用語はやめてね

入門編では物足りない方に、初級編の書籍をいくつか紹介します。
門の内側には入ってみたいけれど、あまり小難しい言い回しはしてほしくないわ、という方におすすめ。

『あなたの体は9割が細菌』/アランナ・コリン

続いては2015年に原書が出版され、日本では2016年に単行本が出た『あなたの体は9割が細菌』を紹介します。

著者のアランナ・コリン氏は進化生物学の博士号を持つサイエンスライター。
抗生物質に命を助けられた経験を持ち、その後の不調は抗生物質による腸内細菌の乱れが原因ではないかと思いはじめたところから、マイクロバイオームの世界に興味を持ち始める。

さすがプロのライターだけあって、話の展開もうまいし、リサーチ力もすさまじい。
私たちの体に共生するマイクロバイオームについて、入門書よりはしっかり学びたいなという人に、まずおすすめしたい一冊です。

『マイクロバイオームの世界』ロブ・デザール&スーザン・L・パーキンズ

2016年出版の『マイクロバイオームの世界――あなたの中と表面と周りにいる何兆もの微生物たち』も、微生物の概観を学ぶのに適した良書です。

上述の『あなたの〜』と同様にヒト共生マイクロバイオームが中心だけれど、前者が私たちの健康と細菌の関係という視点を軸に展開されているとすれば、こちらはより微生物たちの視点から話を進めていると言えるかもしれない。

その理由は、著者たちのプロフィールを見れば少し納得がいくかも。彼らはアメリカ自然史博物館の学芸員で、実益とは少し距離を置いたところから事実を眺めることに慣れているのでしょう。

本書はアメリカ自然史博物館で2015年11月から2016年8月まで開催されていたマイクロバイオームの展示会に合わせて制作されたものだそうで、内容もなんとなく展示会を順に巡っているかのような気にさせられます。

微生物の種の特定に使われる次世代シーケンサーの仕組みも簡潔に解説されていて、参考になりました。

『きたない子育てはいいことだらけ』/ブレット・フィンレー、マリー=クレア・アリエッタ

2017年出版の「きたない子育て」はいいことだらけ! ―丈夫で賢い子どもを育てる腸内細菌教室は、カナダの著名な微生物学者たちによる本。

どちらも子どもを持ち、仕事でも子どもに接する機会が多いことから、妊娠と出産、そして子どもたちの腸内細菌についての最新の科学論文をわかりやすくまとめてくれています。

本noteでも「腸内細菌は何歳までに決まる? 赤ちゃんから子どもへの成長とともに歩む菌たちのこと」と題したシリーズでお送りしている内容だけれど、もっとこの分野に関してだけでいいから詳しく知りたい人におすすめ。

同じような内容で「子どもの人生は「腸」で決まる: 3歳までにやっておきたい最強の免疫力の育て方」という本もあり、こちらはQ&A形式が基本で、さらに易しい内容。

中級編 いちばん活躍する知識を授けてくれる本たち

微生物の世界に馴染んできたら、これから紹介する本たちに手を出していい頃合いです。
手早く知識を得るなら簡単な本がいいけれど、ちゃんと理解しようと思うなら、大事な情報が「かんたん言葉」に翻訳される前の生の言い方をされている本を読むのがいいと思います。

『共生微生物からみた新しい進化学』/長谷川 政美

2020年出版の『共生微生物からみた新しい進化学』を紹介します。

この本の目次を見た途端、私のnoteの存在意義を再考させられました。
それくらい、網羅的に微生物と私たちの関係を、最新の研究を踏まえてまとめてある本です。

まえがきにある通り、著者が現役引退後に自分で勉強した内容をまとめているとのことで、どちらかというと一歩ひいた立場からいろんな研究を眺めることができます。

ヒト以外の生きものも含め、微生物との共生を「進化」という縦軸で理解できます。ストーリーを楽しむというより、リファレンス本としても活躍しそう。

『失われてゆく、我々の内なる細菌』/マーティン・J・ブレイザー

失われてゆく、我々の内なる細菌』は、2015年に出版されて10年弱が経つにもかかわらず、未だに「読むべき腸内細菌関連の本」の五本指に入ると思います。

著者のマーティン・J・ブレイザー氏は、微生物学の第一人者も第一人者で、マイクロバイオーム研究の皮切りであるヒト・マイクロバイオーム・プロジェクト(HMP)のリーダー格です。
前述のロブ・ナイト氏と並んで、というよりこちらのほうが大御所でしょうが、この業界で知らない人はいないはず。

著者は長年、「ピロリ菌ってほんまにそんなに悪いん?」という視点で研究を続けてきて、のちに抗生物質が常在細菌に与える影響を幅広く研究しています。
特に肥満と細菌の関係に詳しいですが、細菌の多様性が失われることに早くから警鐘を鳴らしていた慧眼ある人。

2024年の腸内細菌学会に講演に来られるそうなので、興味ある方はぜひ聞きに行ってみてください。

『土と内臓』/デイビッド・モントゴメリー、アン・ビクレー

続いては2016年出版『土と内臓―微生物がつくる世界』を、愛を込めて紹介します。

地質学者の夫と環境計画のプロである妻が二人で作ったこの本は、表紙の絵と題名のインパクトだけでマーケティングをほぼ成功させていると言ってもいいんじゃないでしょうか。

そしてページを開くと、どの1ページとて裏切られることはありません。
豊かな畑に暮らす土壌微生物に焦点を当てた前半、がんを患った妻を主人公にヒト共生マイクロバイオームに焦点を当てた後半。

そのすべてが、著者たちの叡智と熱意と素晴らしい編集チームによって、芸術的にまとめられています。
そうよね、土の中とわたしたちの体って、つながってるよね!!科学的にも!

もし家が急に火事になったら、どうしても外せない小説5冊と、夫にもらった手作りのアルバムと手紙と、買ったばかりの木製ヨガブロックに次いで、まだ持てたら絶対に運び出したい一冊。(中途半端やな)
でも、仕事関係の本の中では一位やから!!(どんなフォローや)

『家は生態系』/ロブ・ダン

2021年に出版された新しい本である『家は生態系―あなたは20万種の生き物と暮らしている』には、ごく一部を除いて、ヒトの体に住むという意味でのヒトマイクロバイオームは出てきません。

そのかわり、私たちの家に住むマイクロバイオームを次々に紹介しています。微生物生態学といえば、これまで極限環境に出かけていって調べるのがメインでしたが、身の回りの菌たちに焦点を当てた研究がひそかに盛り上がっています。

著者はノースカロライナ州立大学教授のロブ・ダン氏で、本に掲載されている顔写真はハリー・ポッターに出てきそうな感じです。
いつのまにか、ミクロの世界が見える魔法にかかったような気分になる本。

日本で屋内環境微生物といえばBIOTAさんですよね。
はじめてウェブサイト見たときから、いつかここと仕事したいな〜と、自分を磨きながら狙っています。

自分と共生している菌たちも、身の回りの菌たちも。
目に見えないからこそ、その存在をしっかり感じたい。

上級編 この分野の概観をひととおり知ったあとのあなたに

ここに載せる本たちは、決して読みやすい本ではありません。
もっともっと微生物の世界にどっぷりつかっていきたいマニアたちに勧めます。

『微生物が地球をつくった』/ポール・G・フォーコウスキー

微生物が地球をつくった -生命40億年史の主人公』をはじめて手に取ったのは、近所の図書館でした。
「おお、これは読まねば」と直感するも、貸出期限内に読み切れるような本ではないと思い、そのままブックオフオンラインで注文しました。

あのとき、2週間だけ借りて最初の方を読んでいたら、多分買っていなかったでしょう。

微生物の進化論や生化学が専門の海洋生物学者である著者の言葉は、化学な苦手な私には難解すぎました。
なので、この本は化学ができる人にとっては上級編には入らないと思われる本です。

ただ、後半は俄然面白くなってくるし、医療論文などの結果として目に見える現象の奥で何が起こっているのかを想像できるようになるので(なんとなくやけど)、読んでおいて損はないです。

というか、かなりの良書です。再読を誓っている一冊。

『微生物生態学』/デイビッド・L・カーチマン

2016年に出版された『微生物生態学: ゲノム解析からエコシステムまで』は、こういう本、なかったよね! でも絶対に必要だよね! という声があちらこちらから聞こえてきそうな本です。

微生物学というのは全体ではなく部分から始まった学問で、それゆえに専門がばらばらと細分化しているフシがあるけれど、ほぼすべての生命が微生物と共生しているという事実を鑑みると、すべての(特に生物)科学者が知っておくべき分野である気もする。

そういうわけで、微生物の世界をすべて網羅しようとしたのが、本書の狙いのようです。
かなり難しく、これはもはや一般書ではなくて完全に専門書です。

いつか、この本が自分のバイブルになるよう精進しようと思いながら、最初の1割くらいを苦労して読んだところです。
今のところは、これが部屋にあると気が引き締まる、という役割しか果たせていません。

また面白そうな本があれば、紹介します。

番外編

『発酵文化人類学 微生物から見た社会のカタチ』/小倉ヒラク

2020年に出版された『発酵文化人類学 微生物から見た社会のカタチ』は、微生物のことというより、その微生物が働いた結果としての「発酵」という現象に特に焦点を当てた一冊。

著者の小倉ヒラクさんは、もともと大学で文化人類学を専攻されており、デザイナーの仕事をされていたとのこと。
自身のアトピーや喘息が発酵食品で改善された経験から、「発酵デザイナー」として微生物に詳しいデザイナーとして活動されています。

私と同じく文系出身なのに、異様に微生物に詳しいので、私も尻に火がついた気持ちで勉強しようと決意したとともに、
微生物の世界は人文科学や哲学のような学問と重なるところが多いと感じていた自分の背中を押してくれた大切な一冊です。

最初はジャケ買いでしたけど。

この記事が参加している募集

私のイチオシ

わたしの本棚

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?