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粋な寿司折

贔屓のお寿司屋さんがある

近所なのでふらっと入ったのが出会い

旨くて 清潔で 余計な部分はない


小さなお店だが いつもはほとんど満席

夜のお店のお客さんも多い店なので

そういったお店が自粛休業されるなか

今は言わずもがな…


いつも忙しくホールを仕切っている

お姉さんがたも 店の外を眺めている

ぼくはふと思いついて 暖簾をくぐった

『お一人様ですか?』とお姉さん

『折にしてもらえますか?』とぼく

つけ場から『お近くなら出来ますよ』と大将


数人前頼んだので 待つあいだ

いつもは満席のカウンターで

あたたかい緑茶をいただいた

大将も板前さんもお姉さんも

野暮で余計な話は何もなかった

いつもどおり

カウンター越しに見えるネタも

いつもどおり

入り口には桜まで生けられて


家で折箱を見つめて 

まだ“涙おとし”の巻物も食べてもいないのに

僕は少し涙が出た

木製の折箱

バランは揺るぎなく笹

それをいくらと雲丹の上にも

蓋で潰れないように ふわりと被せて

ガリはたっぷりと しかし汁漏れのないよう

包みも裏切らない 寿司の漢字柄に店名入り


折りなんて今はそんなに出ないだろう

それなのに

細部まで抜かりなく 丁寧で心地よい寿司

合理化と費用対効果と時短の波の 逆行


ぼくはこの粋な寿司を食べよう

粋な仕事をいただこう

これからもずっと


久しぶりに折りを頼んで良かった

またこの寿司屋が好きになった




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