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磯の鮑の片思い

今日は桃の節句 ひな祭りだった

詳しいことはわからないが

女の子の健やかな成長を願う日だそうだ


スーパーやチェーン店でも

ちらし寿司、雛あられ、菱餅などの

ひな祭りにちなんだ

彩り鮮やかな食べ物が売られていた

女の子らしいなと

微笑ましく眺めた


そんな中、地味な食べ物がひとつ

「蛤の潮汁」


『蛤(ハマグリ)かぁ…

確かに寿司には合いそうだけど

この中ではあまりにも地味だな

何となく男っぽいしな…』


正直、他のものと比べて

大きさと値段くらいしか

張り合えそうなところがない


気になって調べてみると、

蛤(ハマグリ)は 対の貝殻しか合わないため

それに掛けて

“自分に合う相手と結ばれて

一生一緒に添い遂げられるように”

との願いが込められているそうだ


昔はこの蛤を使って

「貝合わせ」なんて遊びもあったらしい

対のものしか合わないので

それを探すゲームらしい

パズルみたいなものか

そう言えば昔 祖母の家のどこかで

貝殻の内側に百人一首に出てくるような

人物が描かれた貝を見たことがある気がする


ふーん… という訳で

地味に見えた「蛤の潮汁」は

意外と願掛け要素の強い

“意味のある”ものだとわかった


わかったところで

ぼくは蛤(ハマグリ)は買わなかった

そもそも女の子の成長を願う節句なので

ぼくが意識するものでもないのだけれど


代わりに隣で売っていた鮑を買って

自分で捌いて食べた


バターとオイスターソースに

パセリとわさびを少し

蒸し焼きにした鮑の

程よいコリコリ感と

肉厚な鮑から溢れる

少し磯の香りのする甘い汁が

口の中で踊った


残った貝殻の内側まで

銀色の海みたいに綺麗で

捨てるのが勿体ないとさえ思った


二枚貝でない鮑は

自分に合う相手は探せないかもしれないが

こんなにも魅力があって

こんなにも美味しい


鮑は二枚貝でないから

常に相手を想い、片思いをしているそうだ

(生物学的に云々はさておき)

そんなところも ちょっと

いじらしくて いとおしいと思う


美味しくいただいた鮑は

ぼくの健やかな成長の糧とさせてもらおう

ご馳走さまでした。





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