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世界で活躍する日本人。アジアサッカー連盟から見える景色と日本人の優位性。【中編】

アジアサッカー連盟(AFC)審判部の全体統括を務める阿部博一さん。25歳でプロサッカー選手を引退後、海外留学を経て現職で活躍中。
中編では、国際機関で働いて見えてくる「日本の優位性と課題」、「多様な文化の中で働くこと」についてお聞きしました。
前編はこちら

サッカーに戻って見えてきた自分の特徴

Jリーグヒューマンキャピタル(JHC)の受講を終え、半年たったときアジアサッカー連盟の仕事の話がきました。それまでいた日本人の審判部のディレクターが帰国するため、プロジェクトメンバーを探していると打診されました。英語ができて、ビジネスバックグラウンドがあり、サッカーを知っている人を探していました。
アジアサッカー連盟(AFC)のAFC Referee Academy(審判育成アカデミー)を立ち上げるプロジェクトリーダーのポジションで転職しました。4年で完了するプログラムの立ち上げだったので、4年後にまた転職かなと思っていましたが、実は今年で7年目です。意外に水が合っているのかもしれません。
正直に言うと、当初は審判部の仕事は全くイメージが湧きませんでした(笑)。一般的に「スポーツの仕事」というと、マーケティングのような花形業務や、メディアに出るような派手な仕事をイメージすると思うんです。でも、実は地に足つけたニッチな仕事がスポーツにはたくさんあるというのは、三菱総研ときの経験で学んでいました。なので、取り敢えずやってみようと決意しました。海外に生活の軸をおきたいという気持ちも強かったです。
  

国際機関で働いてみて見える、日本の特徴

AFCの立場からみると、日本サッカー協会(JFA)はとても優秀な組織だと感じます。
もちろんFIFA、AFCなどの国際機関も良いところはあります。例えばプロジェクトの実行ですが、FIFAやAFCには「本番力」がある。彼らの感覚は「準備30%、本番70%」ぐらいで、本番での「出力」は目を見張るものがあります。日本は「準備が全て」という感覚のが強いですよね。どちらが良い悪いではなく、それぞれの特徴だと思います。 
日本人の強みと弱みについて、そもそも強味と弱味で二分されるものでなく、トレードオフ的な関係の場合もありますし、個別性もあると思います。その上で、日本人の優位性については日々考える機会があります。

①「御恩と奉公の関係性」で働けること
海外で活動している日本人のサッカー指導者と会話をすると、「その国のサッカーがどうしたらよくなるか?」を本当に真剣に考えている。逆にヨーロッパから来る指導者は、語弊を恐れずに言ってしまえば傭兵的な印象が強いです。自分のスキル分だけ給料をもらって働くというスタンス。どの組織にとってもロイヤリティの高い人材は貴重ですよね。

②先人のクレジットが豊富にある
いわゆる“日本ブランド”です。明治から昭和にかけて、特にアジアの中では日本ブランドが強烈に確立されたと思います。そのクレジットは今でも残っているので、日本人というだけでリスペクトして貰える場面が今でも多分にあります。出身国で第一印象がプラスになるのは、先人の恩恵ですね。

③業務遂行能力が高い
読み書きそろばんの基礎能力が高い。日本の教育方法に賛否両論がある事は理解しますが、世界的には日本の教育はいまだに高水準だと思います。例えば、アメリカの大学院に進学するには、GREという試験を受ける必要があるのですが、この試験の数学部分は、日本の中学生ぐらいまでの知識があれば、かなり高得点が取れます。

④「型」が上手
プロジェクトマネジメントのワークフロー設計、進捗管理や、製造業でいえば金型をつくる的な業務は緻密でうまいと思います。あとは、いちいち仕事が丁寧ですよね。つい先日、タクシー運転と話をしている時に、彼は以前は建築関係の仕事をしていたらしいのですが、「日本人設計士の図面は、そのままつくれば良い建物が立つ」という話を聞いて、ふむふむと頷いていました。
日本で育っていれば、これらの力は高水準で身に付いている可能性が高いです。

 逆に優位性がないなと感じるのは、次の点です。

いちいち「世界へのアクセスが悪い」
地理的な点でもそうですし、言語のこともあります。国民国家だからですよね。G7の他の国を考えても、ほぼ英語・ラテン語の派生言語でコミュニケーションできるのに、日本は海外の人とコミュニケーションするハードルが異様に高い。教育水準が高いのに英語ができない矛盾も感じます。
もちろん、日本という独自性ゆえに成長を達成した部分もあるので、すべてがネガティブとは思いませんが、特に国際舞台では、実力はあるのに英語が出来ない事で損をしているケースは多々あると思います。以前、同僚から「英語ができれば日本人は完璧なのに、みんな何でやらないの?」と聞かれた事もあります。
それを解消するには、個人が立ち上がるのは勿論ですが、国なり企業なりが、日本人が海外で働くことのインセンティブを高める仕組みをつくる事も重要なのではと思います。海外で頑張っても、国の行政サポートが受けにくかったり、帰ってきたらまた同じポジションに着任したり、キャリアのステップアップにならないという話も聞きます。そうなると、海外にいくメリットがないですよね。
あと、個人的な見解ですが、海外にいると社会課題のリアリティは増しますよね。例えば、多くの国にとってSDGsはリアルですが、日本にいると何故かそこまでリアリティを感じない。そういった部分でも日本と世界のギャップを感じたりします。海外に住んでいると、「なんで日本ってこうなんだろう?」を考える機会がたくさんあります。そうした思考を通して、自分の中の日本を深める事が出来ます。こういった経験は好きですね。海外で働く醍醐味だと思います。

一つの目的に向かっていれば、多様性や肌の色、文化の違いなんて気にならないはず

様々なバックグラウンドの人達と仕事をするときに考えていることがあります。
それは、「肌の違い、文化の違いが気になる時は、たいていゴールに向かえていない時」だということです。多様性のあるチームで働くためには、上位概念となるゴールをきちんと立てて共有することが一番大事だと感じています。みんなが一つのゴールに向かっている時には、宗教、肌の色、文化習慣の違いなんて、全然気にならない。
逆に、そういった表面的な違いが気になりだしたときというのは、一つの価値観、ゴールがシェアできていない時だと感じます。これはスポーツ界とか、日本とか海外とか関係のない普遍的な話かもしれません。

<後編に続く>

阿部博一(あべひろかず)さん
アジアサッカー連盟審判部統括マネジャー(Referees Department , Head of Operations)。
東京都出身。大学卒業後、V・ファーレン長崎と契約。プロ選手として3年間プレーした後、戦力外通告を受ける。25歳でカリフォルニア大学サンディエゴ校に進学、国際関係学修士を取得。帰国後は三菱総合研究所へ入社。スポーツ及び教育分野の調査案件に従事。2016年より現職。
Twitter : https://twitter.com/Hirokazu25

(取材・構成:SXLP1期/太田光俊)

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