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シティ・フットボール・グループ(CFG)で活躍する日本人。(3/3) 西脇さんが考えるスポーツのパートナーシップのあるべき姿とは?

シティ・フットボール・グループ(CFG)の日本法人で、パートナーシップ部門セールスマネージャーを務める西脇智洋さん。スポーツ界で様々なキャリアチェンジを行いながら、グローバルなスポーツビジネスの最先端でご活躍されています。西脇さんのインタビューを全3回に分けてお送りします。
最終回となる第3回目は、パートナーシップビジネスの本質、日本におけるパートナーシップビジネスの課題について迫ります。パートナーシップビジネスとSDGsとの関わりとは?などについてもお話を聞きました。
(第1回は
こちらから。第2回はこちらから)

日本のパートナーシップビジネスの現状

日本のスポーツビジネス関係者の中で、パートナーシップ事業(このように呼ばれていないことにも問題が隠れている)がどうあるべきかについて、真剣に考えている人は極めて少ないという印象を持っています。例えば、パートナーシップ事業には、大きく分けると、営業とマーケティングの機能があります。パートナーシップ営業の仕事は、まず、自チームのプロパティとフィットする企業はどこなのか?ターゲット企業をリサーチするところから始まります。そこから様々な手段を使ってターゲット企業へリーチし、企業側の経営課題を把握し、プレゼンテーションを行い、交渉、合意形成、契約締結というサイクルです。特に大型のパートナーシップの新規営業に関しては、非常に難易度が高い仕事であり、本来的には精神的な負荷もかかる仕事だと思っています。一方、パートナーシップ・マーケティングの仕事は、パートナーシップの目的に沿った創造的なアクティベーション案を企業側へ提示し、企業側のアクティベーションの実行をサポートすることです。そして、様々なアクティベーションを通じて顧客満足度を高めた後、次の契約更新に向けたアップセルの提案を行い、そのパートナーシップを長期的に育てていくことも職務になります。これらパートナーシップ事業の一連のプロセスにおいて、営業とマーケティングの求められるスキルは異なるはずですよね。でも、日本のスポーツチームの営業担当者は、営業機能だけでなく、競技運営機能、アカウントマネジメント機能(マーケティング機能とは呼べない)も求められています。この体制で、パートナーシップの目的にコミットできるのでしょうか?そして、パートナーシップを成功に導き、更なる価値の向上につなげていけるのでしょうか?


日本のパートナーシップビジネスを変えていきたい

私自身としては、サッカー日本代表のスポンサーシップのマネジメント、様々なスポンサーシップにおけるの効果測定、海外の様々なスポーツチームのセールスレップ、世界基準のパートナーシップビジネスを経験したからこそ、あるべき姿を伝えていかなければという想いがあります。

単に「資金獲得だけ」のセールスをしていたら、それはサステナブルとは言えません。チーム側の営業の視座が低いと、企業側から「スポンサーシップってどうなの?」「よくわからない」と言われてしまうわけです。あるべき姿は、パートナーシップ事業の全体マネジメントを捉えながらも、本来どういうビジネスなのか、各フェーズでの高い理解度を持つ必要があります。契約締結する前の「目的の明確化」にこだわったアプローチもそうですし、契約締結後のローンチからアクティベーション、効果測定、ワークショップまでのサイクル、それら一連を理解した上で、営業側は企業側へアプローチしていく必要があります。セールスの段階からこのマネジメントを語れる人がまだまだ少ないです。少ないというよりも知られていない、というのが正しいかもしれません。

具体的なマネジメントの一環として、CFGでは、毎年年度の終わりにマンチェスターシティFCのパートナー企業とワークショップを行います。そこでは、各パートナー企業のアクティベーションの成功事例を共有するだけでなく、どのようなアクティベーションが今求められるいるか、オーディエンスが今何を求めているか等を話し合います。このようなレビューを行う機会を経て、お互いのブランド理解を深め、パートナーシップの価値を高めていくことが可能になります。また、企業側もマーケティング権利の使い方やアクティベーションの設計ポイントの理解も向上します。

例えば、企業側がスポンサーシップをどう活用すればいいかわからない等のアクティベーション部分に課題があった場合、スポーツチーム側がパートナーシップビジネスをどうマネジメントしていくか、それに対する深い経験や知識を持っていれば、こうした課題は解決できると考えます。

だからこそ、スポーツチーム側はもっと視座を高く持つ必要があります。パートナーシップのビジネスが、単純に「資金獲得」だけで完結してしまうと、このビジネスがサステナブルになっていきません。このビジネスをより発展させるためには、スポーツチーム側のパートナーシップビジネスの経験値とリテラシーの向上が欠かせません。スポーツチーム側のパートナーシップビジネスをもっとプロフェッショナル化させることができれば、この業界は発展していくだろう確信していますし、そこに貢献したい思いはありますね。

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サステナブルな世界にするためにスポーツができること

世界は、少しずつサステナブルな社会になるべく変化していますが、パートナー企業のアクティベーションにもサステナブルな視点を持つ必要があると感じます。

個人的に好きなアクティベーションの事例として、エミレーツのアクティベーションがあります。CAがベンフィカFCのスタジアムで試合前に入場し、サポーターに向けて、ベンフィカのサッカーの楽しみ方、盛り上げ方を機内アナウンス仕立てで案内しました。

サービスとスポーツの繋がりを見つけること、スポーツ側のオフィシャルファンクションに統合させること、サポーターの琴線に触れること、この3つを意識して、アクティベーションを設計するのが理想的だと思っています。企業、チーム、ファン・サポーター、三方よしのアクティベーションだったと思っています。

今後のアクティベーションのトレンドとしては、そのスポーツを応援するファン・サポーターに向けて自社製品やサービスを伝えるだけでなく、社会問題を提起するようなアクティベーションが広がっていく気がしています。「I」っていう一人称じゃなくて、「WE」という発想でどれだけ考えられるか。ファン・サポーターだけでなく、社会全体を巻き込んだアクティベーションがこれからは求められるはずです。自分たちだけがいいという時代ではありません。若い世代、これからの生まれてくる世代を意識したアクティベーションが求められています。

具体例として、我々のウォーターテクノロジー・パートナー企業であるXylem社が作成した「End of Football」というムービーでは、サッカーファンに対して、水がない世界を描くことで、水をより持続可能な方法で使用するための手順をとり、私たちの未来を守りましょうというメッセージを発信しています。その背景には、最新の国連データによれば、2050年までに世界で50億人が水不足の地域に住む可能性があると言われています。英国の一部でも、水需要の増加、インフラの老朽化、気候変動などにより、水不足が起こる可能性が指摘されています。こうした、アクティベーションが増えることで、サステナブルな世界にスポーツは貢献できるのではないでしょうか。

では、このようなアクティベーションは、スポーツチーム側、企業側のどちらから主体的に働きかけるべきなの?という議論もあるかと思います。私の考えでは、やはりアクティベーションは企業側が主体的に行うべきものと考えます。CFGの場合でも、パートナーシップ・マーケティングのチームが主体的にアクティベーションのアイディア出しやコンサルティングを行うケースはありますが、本来あるべき姿は、企業側がアクティベーションの設計を行い、その意思決定をすべきだと思います。

SDGsはただのコミュニケーションツールではない

これは肌感覚ではありますが、ヨーロッパではあまり“SDGs”というキーワードが全面に出ている感じはありません。一方、日本では、“SDGs”という言葉が流行っていますが、まさにコミュニケーションツールとして使われている気がします。ですが、何事も本物じゃなければいけませんよね。SDGsは経営者にとっては新しいビジネスの種であり、新しい事業機会、ビジネス拡大への興味かもしれません。今、どの企業にも求められていることは、社会課題を解決することでビジネス・経営に活かしていくことだと思います。

スポーツの価値の一つに、生きがいを感じられることが挙げられます。今、コロナ禍で人とのつながりを感じにくい社会になっています。人とリアルで会っても、ソーシャルディスタンスが必要になり、コミュニケーションはデジタルへどんどんシフトしています。ですが、このようなコロナ禍のなか、スタジアムやアリーナでは、ファン・サポーターや選手がお互いに拍手したり手を振ったりして、互いをリスペクトする空間を作ることができています。それだけでも、多くの人たちに生きがいが生まれますよね。まさに、スポーツは、より良い明日、より良い社会を作れるツールだと思うわけです。

なので、スポーツチーム側でも「SDGsの17項目のこの番号をやりました」という表現をすることがあるかと思いますが、SDGsという言葉だけが独り歩きするのは本質ではないと思います。この“SDGs”という言葉が普及する前から、スポーツチームはより良い明日、より良い社会を作ってきたので。今、スポーツチームがやるべきことは、「今まで社会の課題に対して取り組んできたことが、どのように自分達の価値向上に繋がってきたのか?」「今後、さらに取り組みを強化することで、スポーツチームとしてどうなっていきたいのか?」こうした問いに対する答えを経営もしくはパートナーシップビジネスの根幹に置いて、しっかりと言語化・ビジュアライズしていくことだと思います。

スポンサーシップは「社会課題の解決」に直結していくか?

最近は、スポンサーシップビジネスの文脈の中で、「社会課題の解決」というフレーズがよく聞かれます。本当にスポンサーシップで社会の課題を解決できるのか?、この問い自体には意味をあまり感じません。今、私達が目指す方向性は、次世代の社会に可能な限り良いものを残していくことだと思います。個人的にも、自分の子供達が大きくなった時、彼らがより良い社会の中で生活をして欲しいと願っています。企業としても、より良い社会にしたい、次世代に良いものを残したいという思いがあるはず。そこに対して、スポーツチームと企業がそれぞれのアセットを組み合わせて協働することがパートナーシップと呼ばれるものであり、あるべき姿かなと思います。

なので、「社会課題の解決」という表現は、「どんな社会課題に対して、どのようにしてお互いが力を合わせて取り組むか」、その姿勢にこそ、その表現の本質が現れてるのではないでしょうか。スポーツチームと企業のパートナーシップで、どういう問題に対してタックルしていくか?問題を発見しタックルするまでのプロセスこそ肝要かと思います。もっと、ストレートに言えば、解決したかどうかは重要ではない気がします。どういう問題を見出して、そこにタックルして、その過程を継続させることで、社会にインパクトやイノベーションを起こすことができれば、それは本当の意味で成功したパートナーシップだと言えるのではないでしょうか。

パートナーシップのビジネス自体をサステナブルにしていきたい

スポーツチーム側のパートナーシップビジネスをもっとプロフェッショナル化させることも必要なことですが、同時にやらなければならないのは、ライツホルダー(スポーツチーム等)、エージェンシー、ブランド(企業)側がそれぞれの立場からパートナーシップビジネスをどのように考えているか、お互いに認識することも重要かと考えます。この業界を俯瞰で見ると、まだまだ、お互いに考えていることにギャップがあると思います。また、業界の人材の流動性という観点から見ても、ブランド側でスポーツマーケティングを実行してた人がライツホルダーの営業側に転職したり、その逆といったケースもまだまだ少ないなと感じています。

さらに、「スポンサーシップ」ビジネスの根深い問題は、契約を締結する前に「スポンサーシップの目的の明確化」をしっかり行わずにふわっと契約してしまうことです。繰り返しになりますが、スポーツチームにとって、資金獲得だけを意識したセールスアプローチには業界の未来はないと思います。これからはスポンサーシップというビジネスが、顧客に、取引先に、自社に、社会に、そしてまだ見ぬ未来に対してどうインパクトを与えていけるか、最前線に立つスポーツチーム側の営業と企業側のスポーツマーケティング担当が、妥協せずに一緒に考えていかなければいけないフェーズに来ていると思います。それこそ、パートナーシップという本質ですよね。

スポーツチームの規模や種目にもよりますが、全体収入のうちパートナーシップビジネスが占める割合はそれなりにあります。だからこそ、このビジネスをどのようにマネジメントしていくか、もっと議論が起こっていいと思います。Sports X Initiativeでも、議論ができるような場があれば、積極的に関わっていきたいですね。

将来的には、日本の企業側がスポーツチームに対してRFPをどんどん出すような世界を作っていきたいです。そのような状況になれば、このビジネスのリテラシーが上がったと言えますし、パートナーシップビジネスがサステイナブルになってきていると実感できます。そんな志を持ちつつ、日本のパートナーシップビジネスを前進させていきたいと思います。

西脇智洋(にしわきともひろ)さん
早稲田大学商学部卒業後、(株)大塚商会へ入社。5年間の営業を経た後に退社、リバプール大学でFootball Industries MBAを学ぶ。英国から帰国後、(公財)日本サッカー協会でサッカー日本代表のスポンサーシップを担当。その後TIAS、レピュコム(現在のニールセンスポーツ)、MP&Silvaを経て2018年よりシティ・フットボール・グループ(CFG)の日本法人でパートナーシップ部門セールスマネージャーを務める。
Twitter:https://twitter.com/wakkkkkky
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(取材・構成:SXLP1期/太田光俊)

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