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シティ・フットボール・グループ(CFG)で活躍する日本人。(2/3) 西脇さんが考えるスポーツのパートナーシップのあるべき姿とは?

シティ・フットボール・グループ(CFG)の日本法人で、パートナーシップ部門セールスマネージャーを務める西脇智洋さん。スポーツ界で様々なキャリアチェンジを行いながら、グローバルなスポーツビジネスの最先端でご活躍されています。西脇さんのインタビューを全3回に分けてお送りします。
第2回目は、CFGにおける西脇さんの役割やお仕事内容についてです。昨年話題となった横浜F・マリノスとマネーフォワードのパートナーシップについてもお話を聞きしました。
(第1回は
こちら。第3回はこちら)

CFGのパートナーシップビジネスとは?

私の役割は、パートナーシップセールスのAPACチームの一員として、CFG10クラブのパートナーを獲得することです。CFGは10チームの経営をしています。(※注:取材当時。2021年1月に新たにボリビアのClub BolivarがCFG傘下となり、11クラブとなった。)。インドのムンバイ・シティFCもあれば、中国の四川九牛足球倶楽部もあれば、ニューヨーク・シティ、メルボルン・シティ、日本には横浜F・マリノスがあります。そして、フラッグシップのクラブとして、英国プレミアリーグのマンチェスター・シティが存在しています。 グローバルなプロパティとしての強みがあるため、APACチームだけでなく、USチーム、EMEAチームも当然ながらこのマンチェスター・シティのセールスに注力しています。マンチェスター・シティのパートナーシップには、全世界でマーケティング権利を活用できるグローバルパートナーと特定の地域や国でマーケティング権利を活用できるリージョナルパートナーがあります。プレミアリーグの試合は200数十か国にTV放映されているので、グローバルにブランドを訴求できる機会を得られるのがグローバルパートナーです。一方で、リージョナルパートナーは、特定の地域や国において、IPを中心とした権利を使ってマーケティングできる機会が得られます。

2紹介

一方で、横浜F・マリノスとの事業も存在します。日産自動車様とCFGがグローバル・パートナーシップを組んでいているという座組の中で、日産自動車の子会社としての横浜F・マリノスの強化部門と事業部門をサポートするミッションがあります。その中で、私に期待されているもう一つの役割としては、横浜F・マリノスのトップパートナー、いわゆる、ユニフォームパートナーの新規獲得ですね。難しい仕事ではありますが、私自身、意義を感じている仕事です。サポーターの方々が喜ぶ姿がみたいですし。

2019年に担当させて頂いたメルコリゾーツ&エンターテインメントジャパン様の案件は、マンチェスター・シティのリージョナルパートナーと横浜F・マリノスのトップパートナー(ユニフォームの両鎖骨に広告掲出)を組み合わせた、まさに特徴的なCFGディールです。当然ですが、このような契約も、横浜F・マリノス営業部と連携しながら進めています。CFG側でお客様と向き合いながら、経営上の課題やパートナーシップの目的やマーケティングニーズ等を把握し、並行してマリノスの営業部ともご提案するアクティベーション案やマーケティング権利について、すり合わせをしています。
CFGのパートナーシップセールスは、単独で行うのではなく、横断的にチームとして取り組んでいます。CFGには、そのための組織体制があります。一例でいうと、セールスチームとマーケティングチーム、様々な調査データを取り扱うビジネスインテリジェンス・チーム、ストーリーテリングやビッグアイデアを考えるプランニング&クリエイティブ・チーム、デザイン・チームとそれぞれのチームが存在しています。全部のチームが連携しながら、一つのパートナーシップビジネスを成り立たせています。このようにチーム全体の力を合わせれば、当然ながら提案クオリティが圧倒的に高くなります。いつか、日本のスポーツチームにこのようなパートナーシップセールスチームを作ってみたいですよね。これも、このスケールでパートナーシップビジネスを経験している、自分にしかできない仕事かなと思っています。

2マリノス


マネーフォワードの案件はマネーフォワードとマリノス、サポーター、まさに「三方良し」だった

昨年、横浜F・マリノスとパートナーシップを結んだマネーフォワード様の案件についてお話します。こちらの案件は、まさに企業姿勢が一致した案件となりました。マネーフォワードさんのミッション、” お金を前へ。人生をもっと前へ。”という姿勢と横浜F・マリノスが掲げているアタッキングフットボールの姿勢が一致しました。
”お金を前へ。”はマネーフォワードさんのまさにプロダクトの部分だと思います。自分たちのプロダクトを通じてお金の課題に対してソリューションをする。でも、そこだけで終わっていません。そのプロダクトを使っているユーザーさんの人生だったり、社会だったりをより良いものへ、前に推し進めたいという想いをミッションに掲げていらっしゃいます。そこにたくさんの共感がありました。
そのミッションから導かれるようにでてきた”#横浜マリノスをもっともっと前へ”というメッセージ。自分たちだけじゃなくて、サポーターやクラブ関係者も含めて「We」という視点でコミュニケーションを生み出されていました。それを受けて、サポーターからも、”#マネーフォワード様へのマリノスおすすめポイント”というハッシュタグを投げかけていただき、マネーフォワード様を暖かく受け入れてくれました。
私自身、お互いがリスペクトするような世界観を作りたかったので、まだ道半ばですが少しでも実現できたのは本当に嬉しかったです。

今回の案件は、提案段階からアクティベーションのプランニングを行ってきました。そしてリリースのタイミングではマリノスの公式Twitterでティザー投稿をするなども実施しました。このような取り組みにより、さらにエンゲージが高まりました。

リリース後、さらにハッシュタグで盛り上がりました。「人生をもっと前へ」「マリノスをもっと前へ」など。マネーフォワードの社員さんの発信には、マリノスというチームをサポートしようというメッセージにあふれていました。そしてそのようなメッセージがサポーターにも届きました。
結果、2020年10月20日の名古屋グランパス戦ではコロナ禍にも関わらず、社員さんが200名近くも応援に来てくださいました。スポーツの力を感じられた一日だったと思います。マネーフォワード広報の柏木さんが、契約締結からグランパス戦までの盛り上がりを掲載してくださっています。


今回、マネーフォワードの社員さんだけでなく、サポーターも、クラブの方も、多くの方々が一体になってくれました。コロナ禍によりデジタルのコミュニケーションが多くなる中、スタジアムというリアルで会い、互いに心を通わせる。一緒になにか応援する対象があることで、スタジアム全体がポジティブな空気になりながら、活性化したコミュニケーションを生み出せたのはとてもよかったと思っています。
マネーフォワードさんは、社員総会用のVTRとして、今回の取り組みをまとめてくれました。この内容が本当に素晴らしかったので、「ぜひ外に出したほうがいい」ということになりました。すごく感動しますよね。

パートナーシップビジネスの課題、複合的なアクティベーションの必要性

マネーフォワードさんの案件がよかったのは、アクティベーションが多岐にわたっている点だと思います。企業ブランディング(マリノスを前に押し進めてくれたミッションの具現化)、プロダクトの促進(マネーフォワードMEとマリノスのファンクラブのポイント連携)、加えてインナーの社内コミュニケーション活性化(社員200名によるスタジアム応援や社員総会)など。
スポーツチーム側は企業側の広告宣伝部とコミュニケーションすることがよくあると思います。しかしながら、本当のパートナーシップの価値というのは、広告宣伝部に収まるものではありません
もっと経営に近く、理想的には経営戦略の一部として、パートナーシップを使用してもらわないといけません。そのうちの一部が広告宣伝、という認識です。広告宣伝という枠組みの中ででは、どうしても限定的なアクティベーションになってしまいます。
もちろん、契約をするまでのプロセスにおける担当窓口として、広告宣伝部の方とコミュニケーションをとることもあると思いますが、ポイントは、アクティベーションをどのようなチーム体制にしていくか、企業側と一緒になって考えることが肝要かと思います。そして、理想的には、経営メンバーの直下に位置して、複数の部署を横断できるようなチーム編成ができるとパートナーシップの価値の出し方がより本質的になります。広告宣伝だけでなく、リクルーティング、社員エンゲージメント、ビジネスディベロップメント、サステナビリティ、様々なセクションに対して深みのある価値を提供できます。そして、何よりパートナーシップの一番の価値は、企業のブランドパーパスを体現できることではないでしょうか。スポーツを通じたパートナーシップの本質は、「どのような世界観を一緒に作り出していきますか」ということだと思っています。その本質を押さえるためには、やはり経営に近い部分でこのビジネスを行ってもらうことが必要なのです。


スポーツの「スポンサーシップ」をして価値があるのか、ないのかみたいな言われ方をしてしまう現状

スポーツの「スポンサーシップ」の領域においては、やることはもっともっとあると思っています。この領域での課題は、「営業側のパートナーシップビジネスの理解度」と「企業側のアクティベーションの体制、理解」です。パートナーシップビジネスをそれなりに経験して感じるのは、ディールの起点になる営業側がパートナーシップビジネスの本質を本当に理解しているか?ここに課題を感じています。

大事なのは、営業側が企業側と適切なコミュニケーションをとり、どのようなパートナーシップの目的で成り立たせるかをしっかり握ることです。ここが本質です。この目的を握らずに契約してしまうと、「お金は払うけれど価値あるんでしたっけ?」とか「パートナーにはなったもののアクティベーションの仕方がわからない」といった不幸な事になってしまいます。
多くのパートナーシップディールは、営業側の起点で起こっています。だから、なおさら「目的の明確化」をやらないといけません。CFGでは、契約を締結する前に、パートナーシップ・マーケティングチームも企業とのミーティングに入り、なぜこのパートシップを行うのか、目的は何か?達成するためにトラッキングする指標は何か?など、再確認をするセッションを行います。なぜなら、「目的の明確化」がパートシップビジネスの肝であること理解しているからです。
パートナーシップを締結するということは、双方で目的を実現するために努力しないといけません。その象徴的な活動が企業によるアクティベーションとなるわけです。多くの営業は、アクティベーション案を提案していると思いますが、パートナーシップの目的に紐づけたアクティベーション案を提案しないといけません。目的を実現するためのアクティベーションだからです。そして、そのアクティベーションにしっかりと紐づいたマーケティング権利を企業側に付与することが重要です。この流れから理解できると思うのですが、企業側との対話の多くは、経営上の課題の見極めや、それを解決するアイデアに終始しなければいけません。よって、提供する権利の一覧を説明するのは、ほぼ契約を行う一つ前のタイミングです。仮に、営業サイドからそのような対話を飛ばして権利の説明をしていたとしたら、それは間違っているアプローチですね。
そして、企業側も、しっかり吟味しなければならないのが、スポーツチーム側から付与される権利がどの程度の範囲で使用できるのか、つまり、その権利を通じてエッジの効いた魅力的なアクティベーションを行えるか、パートナーシップの目的を達成できるものなのか?しっかりと精査をする必要があります。


最後に、とても重要なことは、権利を獲得することが目的ではありません。権利は使わないと意味がありません。そして、使うのは企業側です。「お金払って購入しました、あとはクラブがやってくれるんでしょ。」というのはパートナーシップのあるべき形ではありません。当たり前ではありますが、このような話も、本来は契約前に話さないといけないことです。


最終回では、今のスポーツ界におけるテーマや課題についてお話を伺います。)

西脇智洋(にしわきともひろ)さん
早稲田大学商学部卒業後、(株)大塚商会へ入社。5年間の営業を経た後に退社、リバプール大学でFootball Industries MBAを学ぶ。英国から帰国後、(公財)日本サッカー協会でサッカー日本代表のスポンサーシップを担当。その後TIAS、レピュコム(現在のニールセンスポーツ)、MP&Silvaを経て2018年よりシティ・フットボール・グループ(CFG)の日本法人でパートナーシップ部門セールスマネージャーを務める。
Twitter:https://twitter.com/wakkkkkky

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(取材・構成:SXLP1期/太田光俊)


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